『春のオルガン』 読了-29

春のオルガン (Books For Children)
春のオルガン (Books For Children)
湯本 香樹実
春休み、それは学生にとって今までの学年でもなければ、新しい学年でもない瞬間。その瞬間をふわふわとした感覚でたゆたう兄弟のお話。小学校を卒業したばかりの姉トモミと、病弱で少し変わっている弟のテツ。二人の家は五人家族なのだが、隣の家に住む嫌なじいさんのせいで両親は喧嘩が絶えず、遂にお父さんは出て行ってしまう。トモミのおじいちゃんは少し変になっちゃうし、暗い気分で春休みを迎えたのだが、テツが道端で猫の死体を拾って帰った日の夜から、少しずつ何かが動き始めていく。『夏の庭』『ポプラの秋』に続く、『春』を題した作品。
湯本さんの作品は、どの作品にも共通して「命」について、触れられているような気がする。しかもそれが子供の目線で描かれているので、オブラードで包まれた柔らかさと、分かるようで、やっぱり分からないもどかしさを持っている。本作で言えば、おばあちゃんの命、猫の命、おばさんの命、隣の嫌なじいさんの命、そして大きな意味で家族全員の繋がりと、「家庭と言うものの命」を考えている。
大人も子供も読める、しっかりとした文学作品でした。
個人的には「家の命」と言うか、「家の思い出」を語る母に涙でした。
それと読んだのは新潮文庫でした。