月の扉 (光文社文庫)
沖縄県那覇空港、乗客240名を乗せたボーイング767型機が、今まさに羽田に向かって離陸しようとしたその時、三人の男女にハイジャックされる。彼らは傍に居た家族連れの乗客から、乳飲み子を奪い人質にする。彼らの要求はただひとつ。3日前に沖縄県警に無実の罪で逮捕された男を、2時間以内に連れてくる事。こうして緊張のハイジャック劇が始まるのだが、その緊張した飛行機内のトイレ内で、子供を人質に取られた母親が死体で発見されると言う事件が起きる。あきらかな密室での死体、これは自殺か、それとも見えざる手による他殺なのか? 密室の謎解きとハイジャックの同時進行が、今始まる。第57回推理作家協会賞最終ノミネート作―
あらすじが簡単に書けないほど、いくつかの要素が深く入り組んだ作品で、そこが石持作品の特徴でもあり凄いところでもある。本作もハイジャック・密室殺人?と書いていますが、その根底には一人の男の存在と特殊な能力が最重要ポイントになっています。教祖的なカリスマ性と正真正銘・本物の能力者。ともすると陳腐なSFチックな作品になってしまいがちな題材を、上手にブレンドし巧みに書き上げています。また密室事件の真相究明係に選ばれる乗客の「座間味くん」が良い。座間味島のロゴが入ったTシャツを着ていたことから、ハイジャック犯に「座間味くん」と呼ばれる彼は、鋭い観察力と冷静な状況判断能力、それに記憶力の良さから真相に辿り着くのですが、最後まで本名が出てこない。あくまでも、たまたまそこに乗り合わせただけの一般人として描かれている。ただ、少しばかり探偵の能力が高いだけ。
石持作品は、日常の中の非日常を違和感無く書いてくれる所が凄い。
また読んでみたいと思います。