『とんび』 読了-16

とんび
とんび
家族の温もりを知らずに育ったヤスさんに、待望の長男が生まれたのは、ヤスさんが28歳の時だった。一目惚れで見初めた愛妻の美佐子さんと、長男アキラとの三人の生活は、ヤスさんにとって初めて経験する「家族の温もり」であり、なにものにも代えがたい大切で幸せな時間だった。だがそんな幸せな時間に、突然の悲劇が襲う―
息子に対する父の愛情を深く丁寧に描いた、重松氏の懇親の一作です。


泣きました、はい。
家庭の温もりを知らずに育ったヤスさんが、やっとの思いで手に入れた、慎ましくも温かい日々。それが幸せであればあるほど、何かの拍子にスルッと指の間からこぼれて行きそうで、それが怖くて悲しくて、つい涙してしまう。そんな父親の想いと、大切で大切で本当に大切な一人息子の成長が、嬉しくもあり寂しくなる瞬間を、文字ではなく行間に塗り込んだ本書は、例えて言うなら「経絡秘孔を突きまくる伝説の北斗神拳」の如きで、思わず「重松さん、アンタはケンシロウか?」と言ったような言わないような・・・。
まっ、それぐらい私のツボを突きまくった訳で、これが「北斗の拳」なら、本を手に取った時点で、既にこう言われていたのでしょう。
「おまえはもう泣いている」とね。
茶化して書いていますが、涙もろいお父さんが読むと、嘘じゃないことが証明されますので、はい。