深夜。
遠くから、サイレンの音が忍び込む。
黒い世界の中に赤い色を回転させ、サイレンの音が近付いて来る。そしてサイレンが枕元で止まる。それに続くように、別のサイレンの音が聴こえ、そしてその後にまた一台。都合、四つのサイレンが枕元で止まり、それとは違う音色のサイレンも、それに続いて来る。
完全に目が覚める。
時計は深夜の2時20分。
そのままの姿で表に飛び出すと、家の北側の空が、ボンヤリと赤く蠢いているのが見えた。無線のような叫び声も、飛び交っている。火事だった。
赤い色に誘われるように、その場所を探して近付くが、赤い色をしているのは赤色灯だけ。
火の手は見えない。白い煙も見えない。だけど、見回しただけでも消防車が4~5台に、救急車や指揮車が止まっていて、物々しい事この上ない。
様子を聞こうと、傍に居た男性に話し掛けた。話に拠ると、路地の奥の家の外壁が燃えた小火らしく、既に火は消えているらしいとの事。その話を裏付けるように、近くに居た消防士の無線の声が聞こえた。
「部隊を縮小します」
安心して家に戻り、麦茶を一杯飲むと、ベッドに潜り込む。
深夜に見た異常な「赤色」に興奮したせいか、直ぐには寝付けず、先ほどの男性の話を思い出していた。最近の建物は、一昔前の建物と比べ、防火性能が格段に向上している。室内からの出火なら分かるが、外壁の小火と言うのは珍しい。勿論、煙草の投げ捨てなどから火事になる事は有り得るが、場所は路地の奥の家だと言う。そこを通る人は限られているだろうに・・・・。
偶然にも、この地域は「紙ごみの日」。
燃えぐさが、道の到る所に積み上げられている日だ。
もし不審火なら?と考えただけで、ゾッとする。
少なくなってきたとは言え、火事の発生件数が「ゼロ」になった訳ではない。都市の不燃化を日常に感じながら仕事をしている身としては、建物だけでなく、人の心の中にある「油断」と言う種火も、消してしまいたいと考えた夜。