クロフツの長編小説で、ずっと翻訳されなかった本書が、今年の春に翻訳されました。
その本書、暫く本棚に積んだままだったのですが、ようやく読む事が出来ました。
まさに、クロフツ・ワールド炸裂の一冊です。
それもその筈、本書は1938年に刊行された作品なのです。ただ翻訳されなかっただけ。
ですからクロフツの世界やフレンチ警部の雰囲気が、先日読んだ1932年刊行の『二つの密室』と同じままでした。
そんな昔の作品なのに、本書はなんと倒叙物。
しかも動物園の園長を勤める主人公がメインキャラではなく、ある意味ではサブキャラというイレギュラーな構図。それでも流石はクロフツ! 事件に向かって転がり落ちていく主人公の心理が、読んでいるこちらが息苦しくなるほどに伝わってきます。その閉塞感の描き方は、実に鮮やか。
また、トリックを解説するために図版が入っているのですが、これがまた良い!
先に読んだ『二つの密室』にも図版が入っていましたが、実はクロフツ、図版を使った作品と言うのは、本当に少ないそうで、そう言う意味では貴重な作品でもあります。
それにその図版は妙にリアルで、作家になる前の職業・鉄道技師だった頃の知識が書かせたアイディアなのかも? と、思わせるほどの内容で、図版好きにとってはたまりません。
ただあまりにもマニアックな断面図で書かれているので、分からない人には、ほとんど「???」だったかも?そこだけが惜しかったですが、とても面白い一冊でした。
コメント
さすがですねえ。
確かに僕にはあれがちょっと「???」でしたよ。
でも「フレンチ警部と漂う死体」(1937年)の
第10章の船の構造とか、第19章の潮の流れとか、
説明されてもさっぱりわからないマニアックさも
僕には笑っちゃうほど「???」でしたから、
そういうのが実に楽しげに書かれているのも
クロフツの魅力のひとつだなあと思っています。
岩脇さん、こんにちは。
やっぱりあの絵は「???」でしたか! (笑)
イラストで説明してくれるのはありがたいのですが
そのイラストがあまりにも専門的過ぎると、余計に混乱しますからね(笑)
どこかの本で読んだのですが、専門知識が無いと解き明かせない謎は、あまり褒められないとか。
クロフツの場合は、絵が専門的過ぎるだけなので
逆に文章だけで説明した方が、誤解を生まないのかもしれませんね。