ミステリ小説の魅力の一つに、神秘的な恐怖の介在があると言われています。ある種、ホラーと紙一重の魅力と恐怖。受け取り手の判断次第で、どちら側にも読めてしまいそうな謎めいた雰囲気。暗く陰湿で、体にまとわり付くような粘着質な恐怖を内包したミステリは大好きです。日本では、横溝正史などが、その代表的な作家だと思います。そしてカーの最大の魅力も、これはリアルな事件なのか、それともホラー的な解釈なのかギリギリの怖さだと思います。本書『火刑法廷』は、その代表作と言えます。
本書は1937年に書かれた作品を新訳したものですが、目次の段階で、既に出来上がっている作品だと言えます。
Ⅰ、起訴
Ⅱ、証拠
Ⅲ、弁論
Ⅳ、説示
Ⅴ、評決
怪奇じみた謎が、ようやくリアルで決着を見た第四章の「説示」なのに、たった5頁しかない第五章「評決」で、今までの解釈は正しかったのか自信が持てなくなってしまいます。思わず、もう一度最初から読むか? と、思ってしまうほどに悩まされます。
怪奇と幻想の世界観を持つミステリ好きは、絶対に読んでおく作品ですが、その世界観が嫌いな方には、これほど腑に落ちない仕舞い方も無いでしょうね。
本書の真相に関しては、ダグラス・D・グリーンの著書『ジョン・ディクスン・カー 奇跡を解く男』の中でも、考察されています。そちらも併せて読むと、いっそう納得がいく!・・・・・・いや、混乱が深まるかもしれませんが?(笑)
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