名古屋工業大学名誉教授でありながら、数々の大学の客員教授を務める建築家。文学に造詣が深い作家でもある著者が、建築と小説家を関連付けて、建築から見る文学史、あるいは文学から見る建築史を説いた一冊。
氏の作品は、『建築へ向かう旅』や『建築からの文化論』をはじめ、何冊も読んだことがある。いづれも視点が面白いのと同時に、建築(これは建築史、都市計画論を始めとする建築関連全般の意味)・文学に造詣が深いことに感心する。そして文章の構築が、まるで数式のように理路整然と並ぶ様は御見事です。
本書では建築家は辰野金吾、小説家は夏目漱石から始まり、フランク・ロイド・ライトや江戸川乱歩の時代を経て、安藤忠雄と村上春樹の時代で締めくくられている。その関連付けと視点の妙には感心しきり。
一つ難を言えば、文体がキチンとし過ぎていて、ダラダラと寝転んで読むと、叱られてしまいそうな気がすること(笑) それだけ建築にも文学にも真摯に向き合い、真っ直ぐに書かれているということ。
建築に疎い方でも本書を読むと、三島由紀夫や谷崎潤一郎と言った、日本の古典的文学作品が好きな方には、今までとは違った視点で作品を読み直すことができると思うし、ふだん本に接しない建築好きにも、文学を身近に感ずることができると思います。
初夏の夕暮れ時に、縁側で冷えたビールと枝豆をつまみながら、古の建築と文学に思いを馳せるのも、また一興かと思うのですが如何でしょう……。