事務所から車で5分ほどの場所にある、神奈川県工芸技術所に行って来た。数年前までは工芸技術センターと呼ばれており、その名の頃には何度か行ったことがあるが、それも10年以上前のこと。今日、ここに行った理由は、小田原の伝統工芸でもある小田原漆器の制作風景を見学しながら、その際に利用する機械類や工具を見せて貰うため。それと言うのも、これから小田原漆器を作る作家の工房を兼ねた住居の計画に入るから。工芸技術所は外壁の補修工事の真っ最中らしく、一面、養生シートに覆われていた。
小田原漆器は垂直に回転する「ろくろ」に、木を固定して加工する。陶芸で使うろくろの場合は水平に回転し、しかも緩やかに回転するが、このろくろの場合は高速で回転する。
作業台の下にはモーターが設けられており、その回転をベルトでろくろに伝える。だからモーターの振動に負けないように、コンクリートブロック製の、しっかりした架台が設けられており、さらに回転を吸収するために角材が挟まれている。これには作業者に適した台の高さに、微調整する意味もあると思われる。
お盆やお椀を作るために木を型に嵌め、ろくろの中心に固定する。製作する物のサイズや形が違えば、そのたびに型を制作する必要があるそうで、なんだか大変そう。型の周囲に切込みがあるのは、木を嵌めた時に、しっかりと固定できるように。その脇にある玄能は、大工さんが使う玄能と比べて柄が短い。しっかりと固定する必要はあるが、大工さんが釘を打つのと違い、削り終えたら型から外さなければならないので、力加減が利くようにだろう。
木を削るための刃物は、基本、自分で作る。刃物の幅や角度、長さなどは、製作する物によって微妙に違うから。だからこののみと言うか刃物は凄くたくさんある。この刃物の種類を見ているだけでも、けっこう楽しい。製作された作品を展示するように、これらの刃物も展示出来たら、きっと見る方の興味を惹くに違いない。
長さも違えば、柄の太さも違う。専門職の人が使う道具は、どれもみな美しい。
それは美容師の鋏であり、料理人の鍋であり、設計者のシャーペンのよう。……いや、それはなんか違うか。
これは「うし」。漢字で書けば、たぶん「牛」。地域によっては「うま」とも呼ぶそうな。ろくろの回転に負けないように、腕と刃物を固定するための物。これも一人ひとり、自分専用の「牛」を持っているそうで、足が擦り減ったり、刃物がこすれて削られてしまった場合には、補修しながら大切に使う物。これも基本、自分で作る。そして一度作ると、たぶん一生モノとして二個目を作ることは無いらしい。職人、カッコ良すぎる。
集塵機。木の削りカスを吸い込む、掃除機の大きな奴だと思えば間違いない。これはかなり大きなサイズの品だが、計画する工房に設置するのは、冷蔵庫程の大きさ。それでも、かなり大きいよね。
これは室。室と書いて「むろ」と読む。ろくろで削られた物に、漆を塗り、乾燥させてはまた塗り重ねるという工程を踏む。塗ったばかりの漆は埃を避けた場所で、かつ湿度の高い場所で乾燥させる必要がある。その乾燥室が、この室。少し大きなドラム式洗濯機程の大きさがある。
これは押入れサイズの大きな室。作品の数が多い場合や、大きな品物を乾燥させるためには、大きな室が必要だから。小田原漆器の生産数が多かった頃には、こんな大きな室を持つ工房がたくさんあったそうだが、今は少なくなっているらしい。また小田原漆器の特徴の一つに、室の湿度が高いと言う点があるそうな。普通の漆製品を乾燥させる際には、室の湿度は70%が適切と言われ、それは塗れた雑巾で室の内部を拭いた程度の湿度だそうだ。いっぽう小田原漆器の場合には、それよりも10%高い、80%の湿度が最適と言われ、その湿度を確保するためには、事前に室全体に水を掛けてしまうという、なんか荒っぽい感じになるらしい。写真の左下に大きな噴霧器があるのは、湿度を確保するための道具なのだ。ちなみにそれほどの湿度が必要な室なので、室を作る材料も水に強くなければならない。写真は、松で骨組みを作り、扉は杉と思われる。
小田原漆器の完成品が飾られていたので、記念にパチリ。漆の塗り方一つで、まったく違った印象を与えている。
こうした小田原の伝統工芸の技を受け継ぐ方の制作工房と、その作品を販売できる店。そして生活の場を提案するというのが、今回の仕事。いろいろな想いを込め、楽しみながら進めていきます。
神奈川県小田原市荻窪314正和ビルみなみ302
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