閉じた室内の中には、矢で殺された男の死体と、意識を朦朧とさせた、もうひとりの男の二人だけ。誰が見ても犯人は明白だが、ヘンリ・メリヴェール卿は久方ぶりに法廷に立ち、彼の無罪を主張する。はたして犯人はだれか? もし彼が犯人でないとすれば、密室での殺人トリックの謎は? H・M卿の推理の帰結が圧巻の、密室物であると同時に法廷物でもある名作の新訳版。面白くない筈が無い!
私の好きな作品ベスト10に入る一冊なので、新訳で読めて素直に嬉しい。そしていつ読んでも面白い。惜しむらくは、いつ読んでも「ユダの窓」のイメージが朧気にしか把握できないこと。図版が入っていれば、もっと楽しめるのにと思ったのは、今から40年ほど昔のことだが、その思いは今も一緒。それでも絶対に面白いことは間違いないので、未読の方は是非! ご一読を。
本編とは関係ないが、巻末に戸川安宣さんの司会で、瀬戸川猛資氏、鏡明氏、北村薫氏、斎藤嘉久氏の四人が、「ジョン・ディクスン・カーの魅力」をテーマに座談会をしているのだが、この話がまたなんとも面白い。好きなことに関して同じ程度に見識を持つ人たちが集まり、ワイワイガヤガヤとやっている様は、傍で見ているだけでニヤニヤしてしまう。あ~、羨ましい。そして実に楽しそう。読後にこれが読めるお得感は、プライスレスです。