私が選ぶカーのミステリー・ベスト10に入る作品が、翻訳も新たに刊行されました。
断崖絶壁に消えた男女の足跡。誰が見ても二人は海に飛び込んで自殺したと思われたが、数日後に海から引き揚げられた遺体は、溺死ではなく至近距離から銃で撃たれたものだった。しかもその凶器の拳銃は、海からではなく遠く離れた道の真ん中に落ちていた。犯人の足跡が無い不可能犯罪に警察は頭を抱えるが、偶然町に逗留していたH・M卿が真相究明に乗り出す—
感想を書くことが、とても難しいミステリです。どの部分を切り取って感想を書いても、きっとこれから読まれる方の興を削ぎそうな気がするので。差し障りが無い程度に書くとすれば、誰がどう見ても「ハウダニット物」ですが、実はそれこそが・・・。難攻不落の謎に対しても、「そんなトリックの使い方があるのか!」と驚かされ、彼方此方に散りばめられた謎が、全て罠だった感じです。
上手く言えませんが、ミステリを直線的に読んでいたら、上下左右斜め後ろと言った具合に、ありとあらゆる角度から物が飛んでくると言った感覚。またこの作品ではHM卿が、あまりの事件の難解さにギヴ・アップしてしまいます。そして別の人物が謎解きを始めるのです。「そんなまさか!」と、思わせておいて……。
さてどうなるのかは、ご自分で確かめて下さい。お見事な作品でした。