小さい頃から、人には見えないモノが見えたユウスケ。そんな彼の前に、「はるひ」と、名乗る女の子が現れた。はるひはユウスケに、「助けてほしい」と、難しい頼みごとを押し付け、そして願いを適えるとユウスケの前から姿を消した。季節がめぐり、再びはるひはユウスケの前に現れ、また無理な願いを適えてほしいと言うのだった。佐々良川のほとりの原っぱ「はるひ野」で、同じ「はるひ」と名乗った少女の正体は? 時を超えて、何度もユウスケの前に姿を現す、その意味は? はるひ野を舞台にした優しい連作ミステリー。『ささら さや』『てるてるあした』に続く「ささら」シリーズの最終章。
とてもよく練られたミステリであり、哀しく切ないホラーでもあります。だがなぜか読後は優しい気持ちになれる——そんな感じの本でした。前の二作も読んでいますが、これだけを読んでも十分に楽しめ、加納作品の良さに触れることが出来ます。本書は「はる」「なつ」「あき」「ふゆ」の四章の他に、そこで登場した謎が解明される「はる 前」と「はる 後」に分かれています。個人的には「ふゆ」の章に惹かれました。学校に馴染めず、野生の鷹をコッソリと手懐けて飼う少女の話です。野生に返さなければならないと分かっはいるものの、鷹を返してしまうと、また自分は独りぼっちになってしまうと悩む少女の話ですが、ユウスケとの接点が、本当に自然で違和感が無く、それでいて短い会話の中に、とても大切な言葉を詰めている辺りが印象深かったです。夏の夜、ほんの少しだけホラーな雰囲気に触れたい方にもお薦めできる優しい一冊。