東京ステーションホテルのカフェ、初老の男がコーヒーを頼むと、目の前に座る七歳の少女が「どら焼きのセットにすればいいのに。昔よく三人で食べたよね」と、話し掛けた。まるで男の昔を知っているかのように。目の前の少女が、今は亡き自分の娘だというのか? 不可思議な出来事の連続が、愛の深さへと帰結する、第157回直木賞受賞作。
文章のリズムも良く、場面展開の切り替えの巧みさが、飽きさせずに一気に読ませる。謎、そして謎、そして三度の謎と、吸引力も高い。そしてラストの衝撃は秀逸。さすが直木賞受賞作。遅読の私が半日弱で一気に読んでしまったほどなので、その筆圧の高さは間違いない。ただ、この作品は好き嫌いがハッキリするのではないかと感じた。
ふだんミステリ読みの私は、作中の不可思議な出来事もすんなりと受け入れるが、そもそもそれが「無理」と言う人には、全く通じない危険性も持っている。勿論、どの作品にも好き嫌いはあるのだが、そもそも物語の軸となるガジェットが受け入れ難い場合、それは作品として面白いと認められるのだろうか? ふだん他者の評価を気にしない私だが、この作品に限っては他者の評価を聴いてみたいと思った。誤解の無いように書いておくが、私は面白かった作品です。