表の顔は文具メーカーの営業マン、裏の顔は超一流の殺し屋<兜>。そんな兜は妻には絶対に頭の上がらない恐妻家。兜は息子が生まれたころから、殺し屋の仕事を辞めたいと思っていたが、殺しの仲介役<医師>は、それを許さなかった。仕方なく殺しを続ける兜に、爆発物を使ったテロリスト集団の一人を殺せという依頼が医師から入る。「AX」「BEE」「Crayon」「EXIT」「FINE」の全5篇からなる連作集。
伊坂氏の作品には過去に『グラスホッパー』や『マリアビートル』と言った殺し屋シリーズがありますが、殺し屋本人を主人公にした作品はこれが初めてでは? 殺し屋としての活躍よりも、父親としての息子への愛情が、グッときますし、そこが肝でしょう。
書名の『AX アックス』は、斧の意味。作中に「蟷螂の斧を見くびるな」という台詞があり、そこから来ていると思います。ちなみに「蟷螂の斧」とは、カマキリの鎌のこと。虫の世界では強い力を持つカマキリでも、馬車に立ち向かっていけば、ひとたまりも無く踏みつぶされてしまう。己の力を過信する愚か者―って感じでしょうか。ところが「蟷螂の斧を見くびるな」となると、意味は違ってきますよね。この辺りがこの作品の見せ場なのでしょう。面白かったです。そして解説を書かれている杉江松恋さんは、いつもながらお見事です。この解説だけでも読む価値があります。