なぜ子供はベランダから転落するのか

最近、マンションのベランダから転落する事故が、続いてるような気がします。先週末の27日には、小田原からほど近い山北町に建つ6階建てマンションの6階から、4歳の女の子が転落して亡くなったそうです。

山北町には現在進行中の計画があるため月に何度も出掛けており、当該マンションの前も何度も通っています。6階のバルコニーには3種類の形状の違う手摺壁が設けられていますが、どの形状の手摺が事故のあった形状かは私には分かりません。手摺の高さ1250mmと聞きましたが、形状としてはコンクリート壁状の手摺と、ポリカーボネート判と言って強度のある割れにくい面状の手摺壁。そして一般的な縦格子の手摺の3種類があります。

こうした事故がある度に考えるのですが、ベランダに台になるような物が置かれてはいなかったのか? その上に上り、転落事故に繋がったのではないのか?と言うことです。ですが詳細は不明なため、あまり不謹慎な推測も出来ません。ただふだん手摺の高さを考える側の立場の者とすれば、1250mmの高さってそこそこ高いと思うのです。また縦格子の手摺の場合でも、今は手摺子と手摺子(縦の棒の意味)の間隔は、内法で110mm以下、推奨では90mm以下と決まっています。高層階になればなるほど、手摺の高さは高くなり、手摺子の間隔は狭くなることが一般的です。

だいたい110mmの手摺子の隙間って、新生時でも通り抜けることが難しいほどの幅しかありませんし、90mmなら尚更です。つまり手摺子の間を通り抜けたので無ければ、手摺を乗り越えて転落したとしか考えられないのですが、4歳児の平均身長は1000mm程度なので、自分の頭よりさらに頭一つ分ほど高い手摺を乗り越えるなんて出来ないと思うのですよ。ということはつまりベランダに何かしら台になるような物が置かれており、その上に上っている時にバランスを崩して転落したと考えることは、それほど無理な思考の道筋では無いのです。

で、ここで問題になるのが、「今日日、小さな子供が居る家で、ベランダに台になるような物を置くはずが無い」という迷信のような考え方です。でも本当にそうでしょうか? 確かに台や椅子、ベンチや滑り台などを置くことは無いでしょうが、例えば水を撒くためのバケツならどうでしょう? 逆さまにすれば300mm程度の高さにはなるでしょう。あるいは植木鉢は? プランターは? 園芸用品を収納しておく収納ボックスならどうでしょう? どれも足を載せることが出来れば、そこそこの高さの台になります。好奇心旺盛な子供ならそこに足を掛け、普段見ることの出来ない景色を眺めてみたいと思っても不思議はないと思うのです。

少し前にバルコニーの話しをコラムに書いた時に、「高層マンションのバルコニーに椅子やテーブルを置いているが、強い風で飛ばされて困る」と、書かれた方が居ました。私に言わせれば論外です。マンションのバルコニーは共用部分であって、個人だけが使用する占有部分ではありません。建物外部の美観を損ねないように、色を塗ったり他の部屋と違うような装飾を施すことも勿論許されていません。また火災などの災害時には、玄関では無くベランダから避難しなければならない状況も有り得るので、そこに避難の障害となる物を置くことも許されていないのです。それを自分だけのスペースだと勘違いしている方が、いまだに多いことが不思議でなりません。たぶん考えられる理由とすれば、TV等のリフォーム番組で本来許されていないバルコニーを改造して、得意になっているような企画を観て、間違った情報を鵜呑みにしているのではないでしょうか。それダメですから。

大切な我が子を亡くされた御家族には掛ける言葉もありませんが、誰よりも悔やんでいるのは亡くなった子供さん自身だと思います。またマンションのバルコニーにたくさんの物を置いて悦に入っている方も、その障害物のせいで犠牲者が出た時に初めて思うのですよ、「ああ、あんな所に物を置かなければ良かった」と。出来れば、そうはなって欲しくないと、心から願っています。

コメント

  1. ベティ より:

    以前住んでいたところでも、住民はほとんどベランダは自分のスペースだと思っていましたから、ステイ・ホームの時期だからこそ、ベランダで「野菜を育てましょう」とか「ちょっとDIYしてベランダに小さなテーブルとイスを作ってそこで気分転換で朝食を」みたいな方々もいるでしょう。
    確かにテレビでは「ベランダに侘び寂びの枯山水を…」「もう一部屋できます」などのとんでもない企画、しかし魅力的な企画で人々を煽ります。
    一般人は原理原則を知らないのだから、やはり建築家なり専門家が声を大にして上手に伝えて欲しいのです。そうすれば子どもたちの悲惨な事故 は減ります。
    自粛警察、マスク警察なる人々がいるようですが、こんなことにこそ活躍して欲しいものです。

  2. たしかに、「ベランダを改造してもう一部屋作ってみませんか?」と、言われたら魅力的ですよね(笑) そんな企画を立て製作しているTV局や製作会社さんて、優秀な大学を出たエリートさんが多いと思うのですが、それこそ私の勘違いなのかもしれませんね。
    そもそも分譲か賃貸かの違いにも拠りますが、入居者に「そのバルコニーは占有部分では無く共用部分ですよ」と説明する義務は、分譲マンションの場合ならば仲介する宅地建物取引主任者にあり、賃貸の場合なら不動産会社にあり、建築士ではないのです。なんせその物件の契約や引き渡しの場に、立ち会う事こど無いのですから。ですからあくまでも推測でしかありませんが、「バルコニーは共用部分なので、貴方の私物を並べ立てて自由に使って良い場所ではありませんよ」なんて話はしないと思います。たぶん説明する側だって、チャンと分かっているのか怪しいですしね。
    またマンションには管理組合と言う組織が設けられており、管理規約なる約束事が書かれた説明書が作成されており、分譲マンション入居全員に必ず配られています。そこにチャンと書いてあります。だからあとから聞いてなかったなんて言ってもダメなんです。という、ここまでが法律的な話。
    でもそんな法律論の前に一般的な常識として、ベランダの隣の部屋の境に設けられているペラペラの衝立壁に、「非常時にはここを蹴破り、隣の住戸に避難して下さい」って書いてあるのを見たことがありませんか? それは一体どういう意味なんだろうと考えませんか?と、言う話です。
    こんなこと、建築家の団体が声を大にして啓蒙する話だとは思いません。せいぜい基準法の手摺高さ等の基準が厳しくなるだけの話しです。