築年数が経ち老朽化が進む分譲マンションが、日本中で悲鳴を上げている。老朽化したマンションには住む人も居なくなり、それはただの廃墟と化す。廃墟は都市の美観を損ねるだけでなく、不審火やゴミの不法投棄と治安の乱れを招き、同時に災害時には崩壊の脅威にもなってしまう。だが解体処分するには、それ相応の費用が必要になる。住宅と比べても規模や構造が違うため、その費用は高額になる。建物は区分所有となるため、数人数十人という複数の所有権者が介在し、話をまとめることが難しい。場合に拠っては権利者が既に死亡し、相続権利者が相続を放棄する場合もある。こうなるとその住戸の権利者が宙に浮いてしまう。つまり解体費用を捻出する所有者が見つからず、あるいは見つかっても払えないと難色を示すことになるのだ。
そんな建物事例が日本中に実在している。その中の一つ、滋賀県野洲市に建つ3階建てマンションが、強制代執行に拠って解体された。その費用約1.2億円。その費用は、9人の建物所有者に請求されることになる。
廃墟マンション解体費は1億1800万円 所有者9人に請求へ 滋賀・野洲市が代執行
この建物は比較的に規模が小さいため、この程度の金額で済んでいるが、もっと高層でもっと住戸数が多い建物の場合、解体費用は想像をはるかに超えることになる。購入した額と同程度になることだって、ないとは言えない。
国交省はRCマンションに関して、築60年を解体の基準としていることを御存じだろうか。今から60年前と言えば1960年、昭和35年頃に建てられたマンションが、今、その時期を迎えています。その頃は1964年の東京オリンピックを目前にし、首都高速や東名高速、新幹線の開通と戦後高度経済成長期の真っただ中でした。建築も木造から鉄骨へ、そして鉄筋コンクリート造へと主流が変わっていき、大きな建物が建ち始めた頃です。その頃、バンバンと建ち上がったマンション群が今、建て替えの時期に来ているのです。
勿論、定期的にメンテナンスが施され、建物の老朽化を食い止めている綺麗なマンションも沢山あることは事実です。ですが管理組合なんて組織も無く、みんなで修繕積立金を集めて、数年後の維持管理に努めようなんて考え方は、今に比べれば全然なかった時代に建てられたマンション群。
建物が高齢化すれば、そこに住む人もまた年を取ります。買うことは出来ても維持することは難しく、解体するとなればもっと難しくなります。また家族の形が変わり、系譜が脈々と受け継がれる時代でもありません。核家族化が進み、各々がそれぞれに小さな家を建て、親の住んでいた古いマンションに同居するような時代では無くりました。ですが都市の安全と景観を守るために行政が強制的に廃墟マンションを解体し、その費用の支払いを正当な権利として求める時代です。さて今、築年数の経つマンションに住む皆さんは、この先、一体どのように暮らし、建物を維持管理するべきなのかを考えなければいけない時期を迎えています。マンションという「他者と一つ屋根の下に共に住む」ということは、そういう事なのです。