小田原周辺には二つの猿のグループが居た。一つは「S軍」と呼ばれる約20頭の集団。もう一つは「H群」と呼ばれ、こちらも約20頭のグループだった。この二つのグループはいずれも凶暴で、農家の野菜果物をはじめ、民家まで襲撃し食べ物を強奪していく、かなり危険な集団だった。
二つのグループは早川から箱根までをテリトリーとしており、箱根で追い払われると小田原を経由して早川に移動する。早川で追い払われると、今度は箱根に移動するという行動を繰り返し、行く先々で被害を出していた。霊長類でもあることから行政は駆除の対象としておらず、あくまでも行動監視対象と言うスタンスで、地域住民から猿の目撃情報があれば、追い払うためのロケット花火を配るという対応を、この40年間ずっと取り続けて来た。
私は今から30年以上前、小田原の山の上の方の場所に住んでいた時代があるが、そこで猿の軍団に襲撃された経験がある。なんせ家の周りは、ジャガイモやトマト、ミカン畑に囲まれた土地で、街と違って人の数も少なく、猿にとっては襲撃しやすい場所だった。奴らは畑から盗んできた野菜を、ある時は屋根の上で食べ散らかし、またある時は車の上に乗って食べていた。近所の農家では家の網戸を開けられ、炊飯器の中から炊き立てのご飯を掬って食べていたことさえある。赤ん坊や小さな子供のいる家族は、たとえ家の中に居ても一瞬も油断が出来ない状況を経験したことがあるのだ。
また箱根に近い山間で家を建てる工事をしている時には、猿の軍団に囲まれたこともある。地鎮祭で祝詞をあげているときに、誰かの視線を感じて振り返ると、少し離れた場所から数頭の猿の群れが、じっとこちらを睨んでいた。たぶん供物の野菜や果物を狙っていたのだろう。ちなみにその現場では、大工さんが一人で仕事をしている時に弁当箱が盗まれそうになったこともある。工事したばかりの屋根の上に、猿のでっかいウ〇チが大量にされており、雨樋が詰まることもあった。猿の握力は人間の二十倍はあると言われ、その牙は鋭く嚙まれるのは怖い。まして数頭の群れで襲われたら、大の大人でもかなり危険だ。
そんな「S群」も昨年、全頭が捕獲され軍団は消滅。そして残った「H群」の消滅作戦が、いよいよ決行されることが決まった。全頭を確保するまでには時間が掛かるだろうが、その間に怪我人等の被害が出ないことを願っている。40年以上、猿の被害に苦しめられていた人たちが、安心して窓を開けて暮らせる日はもう直ぐです。