『叙述トリック短編集』似鳥 鶏 著/読了

ミステリ小説の中でも「叙述トリック(じょじゅつとりっく)」物は大好きです。そもそも叙述トリックとは読み手が錯覚するような表現や曖昧な描写などを用いて、読者に間違った思い込みや先入観を与え、トリックとして成立させる手法のこと。
例えば「ボク」と一人称を使っている人物のことを、読者は少年だと思い込みますが、実は女の子でした―みたいな感じ(いや本当の叙述トリックはこんな軽い感じではありません、あくまでも例えですから)。だから叙述トリックを用いたミステリの感想は、何を言ってもネタバレになる可能性が高いため、結果的に何も言えない場合がほとんどなのです。ところが本書は、最初からこの短編集はすべて叙述トリックを使っていますよと言っているのだから、逆に興味がそそられました。
本作は『読者への挑戦状』から始まり、『ちゃんと流す神様』『背中合わせの恋人』『閉じられた三人と二人』『なんとなく買った本の結末』『貧乏荘の怪事件』『日本を背負うこけし』の六作品と、『あとがき』が掲載されています。「すべてが叙述トリックを用いたミステリです」と、最初から提示されているのですから、どこが、誰が、何がと考えながら読むと楽しいと思います。
子供の頃、ミステリのトリックを使ったクイズ本みたいな物を、面白がって読んでいた時代がありましたが、そんな気持ちで楽しめた一冊でした。

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