空欄の謎

熱海市伊豆山の土石流災害が発生して、既に4か月が経ちます。旧土地所有者が盛土工事を行う際に提出した申請書類には、数か所の空欄箇所があったにも関わらず、申請は受理され決済されていたと新聞に書かれていました。空欄だった箇所は「災害防止対策」「のり面の保護」「土の運搬方法」の三箇所。

行政への提出書類は全項目記載することが基本で、空欄のまま決済されることはまずありません。これは家を建てる際に認可を受ける確認申請等でも同じこと。確認申請提出時に工事施工者が未定ならば、施工者の欄には「未定」と、記載する必要があり、決済後には「施工者が決定した際には、その旨を申請すること」と、指導されます。

これは工事施工者が、原則として設計者あるい確認認可業務を建築主の代理として行う代理者と同一人格ではないため、その施工主体の会社を把握するために必要な手続きなのです。設計者と施工者は原則別会社であり、同一なのはハウスメーカーや一部の設計施工を一体で請け負っている会社だけ。勿論、確認申請提出時点で工事施工者が決まっている場合には、その会社を記載します。

話が反れましたが、申請書類と言うのはそんな感じで、意外とキチンと記載しなくてはいけないものなのです。それが盛土工時において最も大切な「災害防止対策」「のり面の保護」「土の運搬方法」の三点を空欄のままでOKされていたことが事実ならば、正直驚きです。

どの業界、どの業種においても、行政庁との関わりは多少はあるものですが、建築や土木の世界においては、それが他の業種に比べて多いかもしれません。となれば、そこには多少の知恵や工夫、慣れや常態化みたいなものがあっても不思議ではありません。今でこそあまり聞きませんが、バブル時代には「地上げ屋」さんなんて言う怖い職種の方々が跋扈する、魑魅魍魎が蠢く業界でした。少なくともそう言う光景を何度も見ていました。役所の窓口で大声で恫喝する怖い方々も見掛けたことがありますし、反対に咥え煙草のまま顎で業者さんに指図する役所の担当者さんだって存在していました。今では考えられませんが確かにそんな時代はありましたし、ひょっとすると今でも、どこかにそんな名残があっても不思議ではないのかもしれません。ただ、それで多くの方が亡くなられたとすれば、「そんな時代もあったね」と、いうことで許されるはずはありません。空欄の謎は、まだまだ闇が深いのかもしれません。