安全管理強化に向けた法改正

法律って知らない間にチョコチョコ変わっていたりするものですが、建築の世界は割と頻繁に法改正がある世界だと思います。例えば震災が起きると耐震基準が見直され、建材を原因とした体調不良事故が起きると、材料の基準や建物の換気が見直されたりすると言った具合に、その都度変わっていきます。他にも建築士が法を脱した不正な設計を行うと、建築士の定期的な業務報告が義務付けられたりすることもありました。

そんななか、来年の1月2日からは労働安全衛生法が改正になります。工事現場で作業する作業員の安全確保に関する法律が改正されます。改正される内容は、高さが5.0m以上を超える足場の上で作業する際には、フルハーネスと呼ばれる安全ベルトを装着し、それを足場に固定することで転落防止事故を防いで下さい――と、いうもの。

安全帯が「墜落制止用器具」に変わります! 厚生労働省 pdf資料

「なんだ、それは良いことジャン」と言われそうですが、実はそう簡単な話でもありません。従来の安全帯と呼ばれる落下防止用ベルトは、腰に巻き付けるベルト型の物が主流で、ベルトと繋がるロープ先端のフックを足場に引っ掛ける形状の物でした。それが今回の改正では全身をベルトで包む形状に変更され、背中から伸びたロープ先端のフックを足場に引っ掛けるという形状に変わったのです。

そもそもハーネスと聞いて、なんとなく想像出来るかもしれませんが、全身を固定するタイプの物って、空から飛び降りる際に付けるパラシュートや、バンジージャンプで飛び降りる際に体に装着するような物で、安全性は高いのですが、その脱着にはかなりの手間と慣れが必要になります。

毎日、現場で作業している作業員の安全確保なら、それは大切なことだと思いますが、例えば木造住宅の建物検査に来る高齢の検査員が、足場に上る際にもフルハーネスをしなければならないのは大変だと思うのです。もっと言えば住宅の新築工事の際に、足場の上に登り屋根を見たいと希望する建築主に対して、ハーネスの着用をお願いできるかと言えば、正直難しいと思います。ましてそれが女性で、スカートでも穿いていたら絶対に無理と言う物。

とは言え、そもそも安全確保の意味なのだから、施主を足場の上に行かせることに問題もあるし、現場にスカートで来ることにも問題があるのは事実。また木造住宅程度の建物だからと言って、安全確保に対して油断していいと言うことにはなりません。なぜなら室内に立てた脚立から落ちて、骨折するなんて言う事故は、まぁまぁ頻繁にあることも事実ですから。

今まで建物調査や検査で足場に登る際に、ヘルメットを被ることはあっても、安全帯を装着するようなことはありませんでしたが、今後はフルハーネスを装着しなければならないのかと心配しています。そもそもフルハーネスとは高価な物で、2万円ぐらいするものが主流なのです。と言うことで来年以降、私は5.0m以上の高い足場には登らないことにしようと思います。どうしても高い場所を見る必要がある際には、ドローンを飛ばそうかと考えています。