大学職員として働く小林美桜は今から十年前、彼女がまだ幼い頃に父親が十代の少年に殺されるという事件に合い、その後、家族は別々に暮らす羽目になってしまった。今は保険外交員をしている妹の妃奈とは時々会うが、互いに心に傷を残したまま辛い日々を過ごしている。そんな時、父を殺した少年が出所したらしいと、妹から聞かされる。それからしばらくして、妹の刺殺体が山中から見つかる。
しかも妹は恋人に高額な保険を掛け、その受取人を自分とする契約を結ばせていた。別の元恋人からも、自分にも高額な死亡保険の加入を勧め、その受取人を自分にしていたことがあると報道されたことをきっかけに、殺された被害者だっはずの妹が、保険金殺人を企てた加害者だったのではないかとの噂が広がる。妹を殺した犯人と噂の真相を確かめるため、ジャーナリスト志望の大学生・渚と協力して調べ始めるのだが、そんな美桜の周囲にも異変が起きる。第21回『このミステリーが凄い!』大賞受賞作。
話が二転三転し、スピード感と意外性が楽しめます。サスペンス的な要素も、スリラー的な魅力も満載だし、ミステリとしてのガジェットも認めます。ですからハマる人には、キチンとハマる作品だと思います。
ただし残念ながら私はダメでした。ミステリですから、いろいろな仕掛けを使うことは承知していますが、この仕掛けが個人的に好きではありません。それは本作に限った話ではなく、どんな作品であっても、この仕掛けを使われると興が覚めてしまうのです。また……の扱い方も、若干ですが私にはアンフェアに写りました。だから途中で混乱したのです。それは私にとって「やられた!」と、膝を打って喜べるタイプの混乱ではなく、数十頁前に戻り読み直すことで、確認を強いられる混乱でした。その確認作業が好きではないのです。
ミステリの楽しみの一つは、後半のオチに向かって畳み掛けるテンポの良さとリズムだと思っているからです。だから「ん?」と思って読み直す作業が必要だった私には、ハマりませんでした。多分に私の読み方の問題ですけどね。ですが大賞受賞作と言うだけの筆圧の高さは確かです。別の作品も読んでみます。