埼玉、千葉、東京と各地で目撃されていた「左手の無い猿」が、小田原市内に出没している。事務所の近くでも目撃されており、小田原市ではホームページを通じて注意喚起が出されている。小田原駅周辺での目撃情報もあることから、市内の各地を転々と移動しているらしい。
何年か前まで小田原近郊には、二つの猿のグループが存在していた。二つのグループは湯河原から小田原、湯本方面へと餌を求めての移動を繰り返していた。農作物への被害は甚大だったし、そもそも猿の軍団が近付いてくるだけで怖い。私も地鎮祭の祭事の最中に猿の集団に取り囲まれたこともあれば、自宅に停めてあった車の上で芋を貪る集団や、建物の屋根の上で屯する猿たちに恐怖を感じたこともある。今は全て捕獲されて居なくなった。
そんな小田原の街を跋扈する左手の無い猿だが、なぜか少しだけ可哀想な気もしている。150km以上の道のりを行く当てもなく、ただ食べる物を求めて移動し続け、あちこちで怖がられ、ときには脅かされあるいは威嚇され、威嚇し返すことを続けている左手の無い猿。その身体的特徴から簡単に識別されるため放浪の軌跡を簡単に辿られ、ただ一頭で移動し続けていることが知られている。
ふと孤独で寂しいのではないかと思ってしまうのだが、獣にそんなノスタルジックな感情はないのだろう。でもなんとなく、そんなふうに思えてしまう。捕獲して何処かの集団に合流させることも難しいだろうし、動物園で引き取ることだって出来ないのだろう。
猿の集団には必ずボスがいて、そのボスの統率で集団の輪が保たれる。その集団の中に外部からのビジターが突然放り込まれても、けして馴染むことは無い。それに似た集団を、どこかで見たことかあるような気もするし、気のせいだったような気もする。左手の無い猿は、どこまで移動を続けるのだろうか。