オクラの漬物サイコー

観光客など誰も来ないのではないかと思える、辺境の地。とまで言うと「失礼だ」と、叱られそうだが本当に何もない場所。そこはJR最南端の駅「西大山駅」。駅だからといっても、ほとんど人の乗り降りは無い。走っている電車も一両だけ、そして乗客も一人という感じ。

それでもJR最南端駅には人が訪れる。駅前に立っている日本でただ一つだけの、幸せの黄色いポストも有名だから。そのポストに郵便を投函すると、送った人も受け取った人も幸せになるらしい。そのポストに投函する葉書を売っているのが、駅前にポツンと建つ「かいもん市場 久太郎」という名の小さな漬物店。

せっかくだからと、一袋300円前後の小分けされた漬物を何点か買ってみた。この時点で、私は大きな失敗をしていたことは、それから数日後に知ることになるのだが、人間とは得てしてそんなもの、とくに私の場合は……。この漬物がどれもみな、私が今までに食べた漬物の中で、一番旨い漬物だったのです。

小分けされた小さな漬物だから、どれもみなあっと言う間に食べ終えてしまう。食べ終える端から次の袋を開け、また食べてしまうので、あっという間に無くなってしまった。あー、もっと食べたい、出来れば旨い酒と一緒に食べたいと思い、とうとう通販サイトを探し出した。

目指す漬物を買い物かごに入れて決済する直前で、はたと考える。これを通販で買うのは正しいのか? ひょっとして旅で買った品だからというフィルターが掛かっているのではないか? どうしよう……。でも生まれて初めて食べたオクラの漬物を、もう一度食べたい。あー、どうしよう。地方の旨い物を侮ってはいけないということを、この年にして思い知らされ、そして悩む。