『決定版 カフカ短編集』カフカ 頭木弘樹 編

カフカの短編集を読んでみた。少し前に読んだ『断片集』が、思っていた以上に面白かったので、こちらも購入。だがしかし、こちらは難しかった。本の感想で「難しかった」は、いささか不適当なのだが、面白かったとか面白くなかったという前に、難しかったという印象の方が強いのだから仕方がない。

なにが難しかったのか? 単純に物語の起承転結と、時代背景が持つ差別や偏見・貧困といった状況が、文中からだけでは理解できないため、それを知らずに読むと、物語の大切な個所を理解できないかもしれないからだ。たぶん私は理解しきれていない。

カフカはユダヤの商家に生まれ、比較的に裕福な家庭に育っている。1920年代前後に書かれた作品が多いが、その頃のドイツは第一次世界大戦後の不況の真っただ中。世界はドイツに重い税金や利息を掛け、ドイツ国民は不況と貧困のどん底に居たと言われている時代。この苦痛な時代に反発するように、後にヒトラを党首とする国民社会主義ドイツ労働者党が政権を握るのだが、その話はここでは置いておく。とにかくそんな時代だということを理解して読んだ方が、よりいろいろな物が刺さるというか、分かるというか理解できる気がした。

『断片集』は、どこか詩集的でもあり、哲学書めいた点もあったが、「短編集」は悲鳴のような叫びと言うか、声が聞こえる気がする。『判決』や『火夫』などは、とくにそんな感じ。

カフカは難しいと思っていたが、やはりその印象は変わらなかった。ただ昔と違い、年齢を重ねたので読めた気がする一冊。