『火山のふもとで』 松家仁之 著/読了


1982年、夏。
村井建築設計事務所は例年の通り、東京青山の事務所から浅間山の麓の山荘・通称「夏の家」に、主たる事務所機能を移転した。F・L・ライトの弟子だった寡黙な老建築家・村井俊輔は、国立現代図書館の設計コンペに参加を請われ、スタットと共に繊細で緻密な設計案を練り上げていく。
3年ぶりの新人として入所を許された坂西徹は、スタッフの一員として設計作業に従事する傍ら、先生の姪と密やかな恋に落ちていく。たった一度の夏が、陽炎のように揺らめきながら過ぎていく――

凄い・・・・・・見事すぎて言葉が無い。
――建築は芸術じゃ無い、現実そのものだよ――
そう語る、建築家・村井の建築論が魅力的です。
また物語り全体のトーンが穏やかなのに、内なる力強さを秘めているのが良い。
文章全体が軽やかでありながら、繊細で吸引力も高く、物語全体にクラッシック音楽が流れているように感じます。こんなデビュー作を書く人が居るから、作家になろうなんて思わないんだよなぁ~(笑)
また、設計という行為と恋愛が、とても自然に結びついていて、その想いを知ること無くして、建物の設計は出来ないと言われているかのよう。
主人公・坂西と村井の姪・麻里子の恋にも魅力を感じますが、それ以上に心をギュッと締め付けられるのは、村井の若かりし頃の恋人・藤沢衣子との関係です。藤沢は、若かりし頃の村井が設計した、軽井沢の家に一人住んでいます。
村井が夏になると、事務所機能を軽井沢の「夏の家」に移すには、たんに避暑と言うことだけでは無いのでしょう。一年のうちの僅かな時を、藤沢の傍に居ながら過ごす事が、大切だったのではないかと感じさせます。
ちなみに軽井沢で活躍した建築家ですから、当然、モデルはあの方でしょう。
またそのライバル建築家は、都庁舎を設計されたあの方だと思われます。
適うなら、私も村井事務所で仕事を覚えたかったです、はい。
本が好きで、建築が好きなら、間違い無く読むべき一冊。
ライトに師事した、あの建築家の作品が好きな方も勿論、お薦め。
その建築家の流れを汲む建築家さんたちの作風が好な方にも、絶対お勧めの一冊。