毒笑小説 (集英社文庫)
東野 圭吾
『怪笑小説』に続く、東野さんの「お笑いテイスト満載」の短編集。
正直言って、この本は凄い!と言うか、東野さんの凄さを実感した。
『名探偵の掟』や『名探偵の呪縛』と言った、パロディー的な要素の一切無い中で、ここまで真剣な「お笑いネタ」を書くとは、ある部分突き抜けている物を感じさせる。本書のあとがきで、京極夏彦氏との「お笑い本」対談をされているが、そこでのお二人の「笑い」に対する本気度にも驚かされた。
まず本書の最初に書かれている「誘拐天国」は、大富豪のジイさん3人が、孫を誘拐すると言う話。一人のジイさんが孫と遊べない事を不憫に思い、孫を誘拐して、ゆっくり遊ばせてあげる事を考えるのだが、なんせ誘拐犯が大富豪だから計画も突き抜けているし、警察なんか全然怖くない。こう言う有り得ない設定での誘拐劇なのに、3人のジイさんのキャラが際立っている事で、「ありかな?」と思わせるところが凄い。あとがきにも書かれていたが、これは長編化できる作品。ちなみにジイさんと書いているのは、3人のジイさんたちに愛情を込めてのこと。まっ、読んでみれば納得すると思う。
また「手作りマダム」には、サラリーマンの妻たちが抱える、社外でのもう一つの大切な付き合いが描かれている。氏がサラリーマンだった頃の実話か?と思わせる。
ある企業の社宅ばかりが建ち並ぶ分譲地内に、念願の一戸建てを手に入れた安西静子は、夫の会社の富岡重役の妻から、月に一度のホームパーティに誘われる事になる。ところが、そのパーティとは富岡婦人が作った手作り品の数々を、強引に押し付けられると言う拷問のような集まりだった。
この重役婦人の振る舞いは、悪意が無いだけに苦痛で、嫌とは言えない雰囲気を生む。それに耐えなければならない息苦しさと、オチの付け方が秀逸で一番笑った作品。
また仕事人間の中年親父が、ある日突然にピアノを習い始めると言う「つぐない」は、胸にグッっとくる一作。その他にも「花婿人形」「女流作家」「殺意取扱説明書」など全12話が収録されている。このシリーズにはもう一作『黒笑小説』があるので、それも近いうちに読みたいと思う。
という事で、次は有栖川さんの『双頭の悪魔』を復習しよう。いや、ある意味予習かも?