第一発見者になりかけた日

休日の朝、日は昇り、鳥は囀り始めたが、町はまだ眠っていた。
窓のカーテンを開け、晴れた五月の空を確かめる。今日は朝から出掛ける予定があるのだ!
・・・ん?視界の端に何か違和感を覚えた。何かこの清々しい朝の光景に合わない、何か不自然な物を見たような気がする。
その正体を確かめようと付近を見回すと・・・・・・!、隣のアパートの植え込みの中に、人が仰向けに倒れている。しかもただ事ではない様子は、遠目からでもハッキリ分かる。顔は血のような赤い物で覆われ、手足が不自然な形に伸びている。仮に酔って寝ているのだとしても、放って置けるような様子ではない。パジャマの上にジャージを羽織り、携帯だけ持って外へ飛び出した。


男の傍に駆け寄り、その様子を確認した。顔の左側が殴られたように腫れ上がり、乾いた血が顔全体を覆っている。上着のボタンは留められているが、なぜかズボンのベルトが外れている。傍には男の物と思われるセカンドバックが、盗まれること無く置かれていた。酔っ払いか、それとも?
男の体を軽く揺すり、二度三度と声を掛けてみたが反応が無い。息はあるが、このままにしておくことは危険だと考え、救急に電話をかける。現場と男の状況を告げ終えると同時に、近所の主婦がゴミを出しにやって来た。事情通の主婦の話によると、男はアパートの住人で、内縁関係の女性と一緒に暮らしているらしい。
そこで男を事情通の主婦に頼み、同居にしている女性を呼びに行く。男の部屋の扉の前にはタバコの吸殻が二本と、吐瀉物か、それとも汚物かもしれない物が散乱している。それらを踏まないようにしながら、インタホーンを押した。インターホンの向こうからは、眠そうな女性の声で、面倒臭そうな返事が返ってきた。事情を話し、男が同居人であるかを確認して欲しい旨を告げると、嫌々と言った様子で表に出てきた。救急車が到着したのは、ちょうどその時だった―
その後、男は救急車に乗せられ搬送されていったが、それまでに一時間以上の時間が掛かったのには、ここで簡単に書く事の出来ない深くて暗い事情があるらしい。それから、男の顔の怪我が、事故なのか事件なのかも私には知る由も無い。
私に残ったのは、清々しい休日の朝に、人生初となった「119番」への電話と、一歩間違えれば「第一発見者」となるかもしれないと言う、物凄い恐怖。そして全てが変更せざるを得なかった今日の予定だけ。<早起きは三文の徳>と言うけれど、そうとばかりも言えないという教訓。
でも、死んでなくて良かった~、いやマジで。

コメント

  1. maki-mari より:

    すごすぎです~、まるでミステリー小説じゃないですかっ。
    うーん、いろんな想像が頭を駆け巡りますが、とにかく「死体」じゃなくて良かったですね。
    それにしても初・119ですか。
    探偵長はお健やかに成長あそばされたのですねー。
    私は掛けたことも、掛けてもらったことも、各々2、3度あります…自慢になりませんね、ははは。

  2. もか より:

    いやードキドキしてしまいました。
    実際、そんな体験をしたことがないので
    小説や、ドラマでそんな場面をみていても
    自分なら探偵長さんのように落ち着いて行動できるか??
    なんだかとんでもないことをしてあたふたとしてしまいそうです
    でも、同居の住人といい、事情が気になりますね・・
    あとで、お礼と事情説明に来るような人たちではなさそうですが・・・何があったの??

  3. 探偵長 より:

    maki-mariさん、本当に死体じゃなくて良かったです。
    でも見付けた時は、完全に死んでる・・・と、思いましたけどね。
    近所の事なので、小さなトラブルごとから大きなトラブルごとへ発展しない事を祈るばかりです。
    ちなみに健全に生きてきた訳じゃありませんが、幸か不幸か「119」も「110」も、
    掛けた事も掛けられた事も有りませんでした。
    maki-mariさんの各々2度3度の連絡は、ひょっとして武勇伝?・・・な訳ないですね。
    この先、ご縁がありませんように(笑)

  4. 探偵長 より:

    もかさん、こんにちは。
    いえ、結構慌ててましたよ、私。その反面、「これが事件なら現場保存をしなければ」とか「廻りの物に触るのは止めよう」なんて事を考えていました。今考えると、完全に死んでる事が前提ですね(笑)
    その後に同居人の姿を目撃しましたが、御礼とか事情説明とか、そう言う感じでは有りませんね。
    どっちかと言うと<余計な事をした>のかもしれません。
    いや~、今の世の中、見て見ぬ不利をする事が良しとされる時代なのかも知れませんねぇ・・・。