Essay 7 聞けない話も大切(2)

前回、聞けない話の一つとしてトイレの話を書きましたが、今回の話はもっと聞けない話です。それは、夫婦生活……つまりSEXの話です。
家の中では、食べることや寝ることと同じように、営まれる自然の行為なのだから、この事を考慮しないで、家を建てると非常に具合が悪いことになります。だけど、面と向かって聞くわけにはいかない。だから、こちらが黙って、気を使うことになるのです。
例えば部屋の配置。 具体的には子供部屋と隣り合う位置に、夫婦の寝室は設けない。これは基本。どうしても隣り合ってしまう場合には、押入れや収納スペースで緩衝空間を設けること。これは、音に対する配慮なので、本当は防音材などで囲ってしまうぐらいしたいのですが、事前の打ち合わせも無しに、黙って防音工事などをやると、気の廻し過ぎと誤解を生じる恐れもある。
このあたりが実に難しい。そうかと言って「奥さんは声が大きいですか?」等と面と向かって聞く勇気は私にはありません。 しかし気持ち良く?SEXができる環境を整えておかなければ、夫婦のコミュニケーションの一部を失うことになるのも確かです。 離婚原因の一つに「性の不一致」と言うのが正式に認められるぐらいなのですから。
また子供部屋と隣り合った配置の場合、壁だけに配慮すれば良いのではありません。バルコニーなどで繋がっているような場合は、窓にも考慮が必要なのです。「音の回遊性」と言い、隣り合った部屋の場合に、音は窓から窓へと回遊するのです。つまり直進するのではなく、横方向に回り込む性質があるのです。「音は直進して、隣の部屋には聞こえないだろう~」なんて甘い考えの貴方!間違いです!
これが2所帯住宅の場合は、もっと気を使わなければなりません。 上下階で、寝室の位置が重ならないようにすることは当然ですが、2階のトイレや浴室の排水音が、響かないようにするなどの点も考慮しなければなりません。深夜にトイレの水を流す音や、シャワーの音などは以外と響くものなのです。
(余談ですが、欧米では必ずと言って良いぐらい寝室にシャワーが付いているのも、一つにはそう言うことなのですけど…おわかりですよね?)
お互いに気詰まりな生活は、そうでなくても辛い同居生活を、(失礼・・・御幣が有りますよね?)さらに辛くすることになると思います。そんなことも考慮した家でなければ、2世代で生活する事以前に、夫婦の関係にも支障をきたすことになるでしょう。
ところが残念ながら、この辺りの配慮は「相手に伝えられない配慮」なのです。 「奥さんの声が漏れ無いように、防音には配慮しましたよ」とは言えないのです。つまり誰も、そこまで気を使っていることを察しては貰えない。
つくづく設計と言う作業は、面倒くさい仕事だと思いますねぇ。良く出来ていて当たり前。しかも、なぜ「良い家」なのか100%相手には伝えられない。
最近は「安い」・「早い」なんて言う、どっかの牛丼屋みたいなキャッチ・コピーの住宅メーカーに人気が有るようですが、ホントにそれだけで大丈夫ですか?家を建てる方法が、それ意外に思い浮かばないなんて人が、増えたのかもしれませんね……残念なことですが。
設計事務所と言うと、暴利を貪る悪党みたいに思っている人もいるでしょうけど、長者番付に載っている設計士なんて見た事がありません(笑)。脱税で捕まった設計士の話も聞いたことが無いし、商売としたら儲かる商売では無いですねぇ~。そこら辺りをどう思いますか?
報酬は意外と少ないし、手間や時間もかかる。それでも、なぜか住宅の設計は楽しい。ひょっとすると私は「マゾ」なのかも知れないと思いながら、今日も図面を書き続ける私。