Essay 22 住宅の寿命

「住宅って、一体どれくらい持つのですか?」と聞いてくる建築主の方が、時々いらっしゃる。正直、返事に困ってしまう。産まれたばかりの赤ん坊を、「この子は一体いくつまで生きますか?」とお医者さんに、聞く事に近いものが有るからだ。



一般的に、木造住宅の場合25年から30年が寿命と言われているが、それだって、正確かどうかは定かでない。(だって、法隆寺は一体何百年建っているか知っていますか?)



仮に30年持つとしても、それが適正な耐用年数かどうかも疑問でしょう?大体、この目安にしている年数は、住宅ローンの返済年数と同じぐらいの長さで「ローンが完了したら建物も限界だ」と言っているようなもの・・・。なんかおかしくない?

今の木造住宅は、おおむね「住宅金融公庫」が推奨する金物で、補強する建て方が前提になっている。柱と土台、柱と梁、梁と梁などの部分全ての接合を金物で補強している。ところが、この「補強」と言う言葉が正しいのか、疑問を持つ人も少なくない。

古くから伝わる柱や梁を繋ぐ「継ぎ手」と言うのは、それは素晴らしく考え抜かれている接合方法で、本来は釘など使わなくても良い技術なのだ。だから、釘が考えられた当時は、釘が補強金物だった。

それが、今はあまり「継ぎ手」を使わなくなった。加工が手間だし、ピタッ!と合わせるように組立てるのは、昨日今日の見習には不可能な技。だから、やらない・・・。チョコチョコッと「継ぎ手」の中でも簡単な加工しかせず(それも機械で)仕方が無いから、金物で補強する・・・なんか矛盾してない?

人間と言うのは、楽~な方に走りたがるようで、金物で補強するという安心感から、継ぎ手の重要性をおろそかにしているのではないだろうか?もっとも、うるさいことを言っていると「手間賃」はドンドン高くなり、「安い住宅」は建たないのだが・・・・・。この辺のバランスが難しい。

それじゃあ、コンクリートで出来ているマンションは、長く持つのかと言うと、それが一概にはそうとも言えないようなんですよね~。





中には、木造住宅より寿命が短くて、20年ぐらいしか持たないことだって有るのですよ。それは建物本体よりも、給排水設備が駄目になってしまうからなんです。水道管や排水管と言ったものが壊れてしまったり、詰まってしまったら、もう生活は出来ません。ご飯も作れなければ、トイレやお風呂にも入れない。それじゃあ日常生活は出来ないと言うもの。



水道管などの給排水設備は15年が、耐用年数と言われています。だから、15年を迎える前に水道管を取り替えたり、パイプの詰まりを掃除しなければならないのですが、実際にやっているところは殆ど無いのが現状です。パイプの掃除等は、15年経って始めてやるのでは、全然駄目で新築後、毎年掃除しなければ効果が無いんですよ。



また、現実的に「15年経ったのでマンション全部の配管を取り替えましょう」と言うだって、現実には不可能なこと。なぜって配管は床の下、つまりフローリングとコンクリートのスラブ(床版)の間に15cmぐらいの隙間を設けて、そこを通している事もあるからです。





そのうえ、壁の中にも配管が通っていたりして、その全部を取り替えようとすると建物を一度裸にしなければならないでしょ?マンションの、全住人が一時引越しして「はい、どうぞ!」と、工事出来るのなら良いですが、そんなことは有り得ない。また、その費用も莫大なものになります。とても「修繕積立金」で解決できる金額でも、工事内容でも無いのです。その結果、20年も経つと、どこかから変な匂いが漂って来たりすることになる。つまり、人と同じ建物に住むということは、大変なことだと言うことなのです。





以前、「100年マンション」と言う企画を立てたことがあるのですが、マンション・メーカーに「そんなものを建てたら、新しいマンションが売れなくなる!」と言われてしまいました。なるほど・・・・・。

マンションも一戸建て住宅も、消耗品として考えれば「お説ごもっとも」だが、それを知らずに買っている人達は、どう考えているのか聞いてみたい・・・。



なんで、建物のメンテナンスのしやすさを考えて、共同住宅の設計をしないのか不思議だったのですが・・・・・なるほど!企業の利益があったのですね。



それでは設計図を書いている「建築家の職域や職能」はどこ行ったの?と、嘆いてみても始まらない・・・。だって、デベロッパーの設計士は「建築家」じゃないから!私に設計させれば良いのに・・・。(きっと、嫌がられると思うけど)





「家」に話を戻しますが、日本は欧米と違って「木」と「土」で家を建てる国です。大きな石を積み上げて家を造ったり、隣の家と100mも離れている外国とは違い、狭い土地にひしめき合って「木」と「土」で出来た家が建っています。





だから一生持たせることは不可能ですが、少しでも長持ちさせられるようにメンテナンスに配慮した家を造らなければいけないはず。そして、メンテナンスをこまめに行うことによって、10年長く快適に過ごせれば単純に特だと思うのですがねぇ~。

女性だって、エステに通ったり化粧品を変えたりして「美しさ」を、保とうとするでしょ?建物だって、同じ事ですよ。





例えば、早く傷む配管の修理をしやすいように造るとか、自分で簡単な修理が出来るようになると言ったことだけで、家の持ちは随分違って来ると思います。



欧米では、部屋の模様替えは自分達でやる場合が多いでしょ?ペンキを塗り替えたり、壁紙を張り替えたりしているシーンを、映画で見たこと無いですか?


日本人は手先が器用だと言われているのだから、自分達で出来るはずなのに、やろうとしない。中には電球の玉が切れたと、電気屋さんを呼ぶ人がいる。(これ実話ですよ・・・笑)そればかりか、家の中に工具さえ無い家も有る。ドライバーやペンチ、金槌や鋸などが無くて、生活していて困らないのでしょうかねぇ?(私は、とっても困るのですが)





義務教育で、方程式の解き方を教えるよりも「正しい家の修繕の方法」を教えることのほうが、生活していくためには大事なような気がする・・・と、言ったら文部省に怒られるかなぁ?



建築は理数系の学問で、私だって微分・積分の勉強を一生懸命やってきましたが、実際には「上手なペンキの塗り方」を知っているほうが、よっぽど役に立つと思っています。


大切な家を少しでも長持ちさせたいと考えるのならば、「家」に対して愛着を持つことです。その為に出来る事は、自分でするべきだと思います。自分で手を掛け、少しでも家の状態を知っていれば、きっと今以上に大切に扱うし、長く住むことが出来るはずです。





何から何まで人任せでは、いつまで経っても本当の意味で「自分の家」にはならないと思うのですが、如何ですか?