Essay 33 高齢者マンションの悲劇

以前、あるマンションの改装工事をした事があります。改装と言っても外壁の塗り直しと言う、とても簡単な工事の依頼だったのです。少なくても現場を見るまでは・・・・・。

だから現場を見に行くまでは、設計すると言う内容では無いなぁ~?とタカを括っていたのです。外壁のお色直し程度なら、設計図など必要ありませんからね。

ところが、現場に着いてビックリ!建物はボロボロ。壁の表面が塊となって、地面に落ちている有り様。階によっては、廊下の手摺に触るのが危険なほど、朽ち果てていたのです。この建物10階建てですから、子供の拳程の塊でも落ちてきて、直撃されたら即死亡!私は驚きのあまり、しばらくポカ~ンと口をあけたまま、建物を見上げていました。





管理組合長さんに詳しい話を聞いたところ、建物は築20年ほどですが、海辺に建っていたせいも有り「塩害」でボロボロ。そして、新築から一度も手を入れてないとのこと・・・・・言葉が無い・・・。

屋上に上れば、高架水槽の架台は錆で真っ赤。基礎には止まっておらず、乗っているだけの状態。防水も破れ、きっと雨漏りしていると思えるほど。おまけにフェンスは手で押せば、地面にまっ逆さまに落ちそうな様子。だめだこりゃ!鉄骨で出来た「避難階段」は、歩く事さえデェインジャラス!(凄すぎる~)

まぁ~問題個所が出るわ出るわ。あまりの痛み具合に、驚くのを通り越して呆れたほど。当然、建物を補修(あくまで補修です)するのだけでも、数千万の費用が掛かると思われました。よくもまぁ~ここまで放って置いたものだ。ところが、本当の問題はここからだったのです・・・。



建物は、分譲のマンション。当然一所帯ずつオーナーが違うわけです。悪い事に、このオーナー達の多くが高齢者だったのです。中には年金で生活している方もいらして、とても改修工事に当てる費用など捻出できない状態。私も、何度か理事会やら総会に同席したのですが、改修費用が捻出できる所帯と、出来ない所帯に分かれてしまったのです。





そうかと言って、このまま放って置く訳にも行かない。下手をすると人命に関わるかもしれないと言うほどの痛み具合で、特に金属部の腐食が酷く、バルコニーに設置されている避難梯子が腐っている家も、かなりの数でありました。その上に乗れば、間違い無く蓋が抜けてしまうからと言って、ベニア板を敷いている家が有ったほど。





今なら、管理会社が入って長期の修繕計画や、修繕積み立て金を集めている建物が多いと思いますが、ここはそれが無かったのです。正確に言えば、長期修繕計画は無く修繕積み立て金も、住民の総意で少ない金額しか集めていなかったのです。

分譲マンションの場合、一般的には「修繕積み立て金」と言って、数年後の改修・補修工事の費用を事前に積み立てているのが普通です。また、これで足りない突発的な事象には「一時金」と言われる、追加の費用を捻出する場合もあります。(一緒に住むって大変でしょ~?箱が大きいから~)

この建物の場合は、修繕積み立て金が無いに等しく、また一時金としての金額が多すぎるため、捻出できない方が出てしまったのです。なぜこんな状態になるまで放っていたのかと言えば、大体次のような事だと考えられます。





・管理体制が甘かった。(これはプロのオブザーブが無かったという意味)
・長期保全計画が無かった

・修繕積み立て費の読みが甘かった

・住人の危機意識が薄かった

・管理会社の介在が無かった(これは管理体制とダブるかなァ?)

・沿岸部に建つため、腐食・老朽化が酷かった(設計も甘かったかも・・・)

・設計・施工した会社が、販売した建物だった(大手のデベでは無く個人に近い)

・その時点で、高齢者世帯がかなり多かった

などの点が、考えられる理由の一部でしょう。この建物の場合、結果的には改修個所の限定や、コストダウンした工法、金融機関による融資の確保と言った努力の末、なんとか改修したのですが、それもあの老朽化ぶりでは何年持つものか保証できません。

余談ですが、この改修の場合「人命の安全」を第一優先にし、「建物の美観保持」は、その次としたのです。当初の予想を裏切り、物凄くしんどい作業でした。

この問題、他人事だと思っているマンション・オーナーの方、他人事ではありませんよ。分譲マンションの場合、戸建の住宅と違い「私の都合」は通用しません。建物の痛み具合を心配する人もいれば、まったく気にしない人もいる。しかし、何かしようとする場合、あくまで総意で動くのが「共同住宅」の縛りなのです。特に権利・価値・お金に絡む事となれば、とにかく大変!経験あるでしょ?これから、増えて行く「高齢者」だけの所帯。「私だけが我慢すれば・・・」と言うわけには、いかなくなります。

マンションがいつのまにか「老人ホーム」に変身していないと、誰が言えるでしょうか?その時に、一体どうやって修繕積み立て金や改修費用を捻出するのでしょう?今の金融機関は、そんな費用を貸してはくれません。

高齢化社会は「高齢化マンション」の問題なのです。今は大丈夫でしょう。でも、10年後20年後も大丈夫だと、言えるかどうかは疑問ですね・・・。