Essay 63 建築条件付住宅

私のエッセイを読んで、ご意見と疑問と若干のご批判を含んだメールを頂戴しました。現状の的を得ている質問でしたので、ご了解を得た上で、私の返信のメールを全文掲載致します。(一部、判りにくい点を解消する為に加筆・添削しております)
ご意見頂いたのは、不動産会社に勤務して1年のSさんからです。では。


S 様

天工舎の安井です。
メール頂き、ありがとうございます。待ってましたよ~。こう言うメールを。
本題に入る前に少しだけ、書いておきます。私が書いていることに、賛否両論あると思います。住宅メーカーや不動産会社・建設会社や設計事務所まで・・・。でも、今までに一度も「それは違います」と反論を受けた事が有りません。


私の本音を言えば、反論を頂き、「それじゃあ、この現実はどうすりゃ良いの?」と共に話しあって、それを公開したかったのです。出来れば「建築主」となるエンド・ユーザーも混ざって、「売る側・買う側」の垣根を越えた所での「良い家を建てる為の方法」を話したかったのです。


ですから今までにも、大手住宅メーカーや欠陥マンションを作った大手ゼネコンやデベロッパーに、メールを何通も送りました。でも、反応はなし。そんな物だと言う現実を、痛感しているのです。では本題へ入りましょう。


私はまだまだ素人はいってますので、素人の戯言と 受け取って頂いて結構ですが、最近エッセイに思う事が有り、 ごく個人的にメールさせて頂きます。

と言う事は、一消費者の立場に立ってと考えて良いのですね?了解しました。

最近、建築条件付きの批判をされておりますが、客観的に文章だけを読んでいくと、建築条件付き、またはハウスメーカーの建築は全て安易な設計・いい加減な施工・欠陥住宅 ・ぼったくりEtc.というようなイメージを受けてしまいます。


多分に、その趣旨で書いています。ですが、悪意を持ってのことではありません。
私の拙いサイトを開いてからの4ヶ月弱の間に頂いた「相談メール」は、 計14名の方からでした。いづれも「欠陥住宅」の問題ばかり。 その施工は、三井・三菱・ユニバーサル・東日本、その他としては 「建築条件付」の建物でお悩みの方が8名いらっしゃいました。


また一連の欠陥住宅報道は、日毎にその数を増すばかりです。 (まぁ、多分にメディアが売れるネタとして煽っている感はありますが) いずれも責任ある「設計者・監理者」は不在で、施工者主導の工事ばかりです。


少し前になりますが「阪神淡路震災」で多くの被害を出した建物の6割以上に、施工不良があったのだろうとの、発表もされています。


知り合いに「欠陥住宅問題」を扱う方がおり、全国的に「欠陥住宅」の対応をしていらっしゃいますが、責任を持って「設計・監理」にあたる設計者が、介入している建物は殆ど無いのが現状です。これは一体なぜでしょう?


「施工者主導の家造りは危険」だと考えているのです。しかも残念ながら、この考え方を定着させたのは、間違い無く「ハウスメーカーや建築条件住宅」と言った「施工者主導」の家造りを行っている人。


現実として、良い土地を購入しようとする場合、建築条件付きの土地は外せない選択肢だと思います。具体的に建築条件なしの土地は、どのようなものかを考えると、「建築条件付きでは売れない土地」という場合が多く、日当りが悪い、地形が悪い、騒音がひどい、自動車が入れない等、 明らかな欠点をもつ物件が多いという状況です。


なるほど。 土地が高騰し、細かく土地を切り売りしないと、一般庶民が購入できない程の「高い物」になっている悪影響が、そう言う所に皺寄せされているのでしょうね。ではお尋ねしますが、その土地は永久に売れ残るのでしょうか?


大きな見方をすれば、行政による都市計画の甘さや、開発業者の区画分けの段階での 失敗により生まれた物は、ゼロなのでしょうか?まぁ、責任の所在に関する話は、この際置いておきましょう。


それではお尋ねしますが、不動産の専門家が見て「明らかな欠点を持つ土地」と判断した物に「建築条件」を付けないのは何故でしょう?

私は、狭い土地・日当たりの悪い土地・形の悪い土地だからと言って、「そんな面倒臭そうな建物の設計は嫌ですよ~」とは言いません。反対に「頑張ろう!」と燃えてしまいます。
つまり、企画力やアィデアで「建物の質を上げて、快適に住む」と言う事を考えるのです。


土地を販売する時に、誰が見ても売れそうな土地には「建築条件」を付け、どう考えても売れない土地には「建築条件」を付けないと言う事は、ただの営業上の作戦ですよね?


それも「仕事」だから必要なのだと思いますし、理解もします。それならば、「建築条件付き建物」の計画時に、設計者不在の事が多いのは何故ですか?全ての場合がそうだとは言いません。でも大多数の場合、メーカー住宅の場合も建築条件の家の場合も、「施主」は設計者と直接お話することさえありません。これで、本当に「施主の身になった家が出来るのでしょうか?」


極論ですが、全10区画位ある開発分譲地で、同じ有効面積30坪の土地を購入するとして、「当然解除できない条件付きの東南角地」で条件の建築をするのと、「どう考えても日当りゼロの条件なし北道路」で、安心できる設計事務所に仕事を頼むのを比べた場合、最終的には、どちらの方が快適に生活ができるのでしょうか。


常識的には前者でしょうし、私が買う場合でも前者の土地を買うでしょうね(笑)
勿論、金額に差が無いとしてですが、現実にはそんな事は有り得ません。 有り得ない例え話に、あれこれ言う必要もないでしょう。


それと、この考え方は、「どちらも同じ程度に正しく造られた住宅」を建てることが、前提となりませんか?それでは、逆にお尋ねします。


「日当たりの良い土地だけど、住む事が危険な欠陥住宅」と 「日当たりは悪いが、それを凌ぐアィデアを盛り込んだ快適で安全な家」では、どうだと思われますか?


当社だって分譲をすれば建築条件を付けますが、お客さんの不利益が無い様に十分に気を使っている様です。「建築条件付きの建築なんてこんなもんだ」とひとくくりにしてしまっては、これから土地から新築を考えている人にとっては、「条件なしではろくな土地は見つからないし、条件付きの建築はたかがしれているし」で 批判に翻弄されるばかりで「じゃ、どうすりゃいいんだ」 となってしまいます。

仰る通りですね。でも、その答えは Sさん の文章の中に書かれていますよ。 それは、「お客さんに不利益の無いように配慮する会社」であると言う事なのだと思います。


私のエッセイを読んで、建築条件付で契約し建物の相談中だった女性から 「設計士さんを連れて来てもらい、相談しながら建てることにしました」と言うメールを頂いた事があります。


「建築条件付き」と言うのは、商売上の一つの作戦なのです。 建設業法上、「工事の一括下請けは、発注者の同意無き場合は、これを禁ずる」と明記されているの、ご存知ですよね?まぁ、そこまで言うつもりも、ありませんがね。


でも多くの場合の現実は「一括下請」でしょ?ならば、その設計や工事の監理を 正しくかつ明確に行う事は、「元請業者」の責務でもあるし、発注者である施主 の財産を守る事にもなる。


つまり、施主も自分たちの財産を守る為に「公平な設計者・監理者の存在」を 確認するべきだし、元請業者も「うちは、こんなに正しく造ります」と言う事を アピールするべきだと言っているのです。


欠陥の有無だけを論じれば、「建築条件」で建てた家だって、 欠陥の無い家のほうが、圧倒的に多いことは承知しています。 でも、残念ながら「空間や住まい方」と言う特殊解に答えられているかと言えば「NO」と言わざるを得ないのが、現実だと思います。


・土地を探すより前に信頼できる設計事務所を探し、土地購入を検討する段階で設計士に相談し、建築のプランを提案してもらう。
・条件付きの土地を購入して、建築の設計、監理を任意の設計事務所に依頼する。
と、この様な事が可能なら土地、建物両方満足がいけるのでしょうか。

一概には言えないと思います。(矛盾してますが・・・^^;)
正しい倫理観と、適切な工事監理が出きる設計者であるかどうかの 判断自体、あやふやな物です。(これは、建設の場合も同じですよね)


だから、設計者の私もホームページを利用して「私はこんな考え方ですよ~」と、 エッセイなどを通して、広くお話しているのです。


それだって、見る人から見れば「怪しい?」と思われているかもしれません。でもインターネットって、そう言う為のツールでしょ?


話が反れてしまいましたが、今の消費者はとっても勉強しています。 インテリアやデザインと言った上辺の話ではなく、「自分らしい家を建てるために」と言った方法や、最近では「品確法」の話まで。下手な設計者より、よっぽど勤勉です。(耳が痛い~~~笑)


そんな勤勉な消費者には、専門化で無ければ対応できない事が、 事実としてあると思うのです。


一素人として、建築業界の現実とセットにした具体的な対応策の提案を願います。私個人としては、出来るだけお金をかけずに「結果オーライ」を狙いたい次第です。


これが即答できれば、私は大金持ちになれるかもしれませんし、悩む事も無くなります(笑)
私が即答する前に、Sさん のお考えはどうですか?一度、ご自身で考えてみて下さいね。


今現在の私の考え方はこうです。 建築条件付ならば・・・・・


1,施工費が決まっているのならば、その仕様や材料を明確に施主に提示する
2,施主は施工者(不動産会社)ではなく、設計・監理者と個別に契約する
  (勿論、施工者指定の事務所でも良いし、施主の連れてくる事務所でも良い)
3,設計監理者は、施主と施工者の建物請負契約書に「監理者」として記名捺印
  し 責任の所在を明確にし、監理上の指導・発言権を「施主が設計者」に与える
4,完了検査は必ず受ける姿勢を持つ


こんなもんで、どうでしょう?
特別に難しい話はしていませんよ。 通常、「建築条件付建物」の場合、設計事務所のお客さんは「不動産会社」になります。(私に依頼がきても、そうでしょう)
だから間違った施工をしていても、注意できない関係になってしまいます。


この関係を、施主と直接契約書を交わすだけで、ある程度は払拭できる思います。また中立な立場で「設計・監理」の業務の遂行もできると思います。


施工する側も間違いを無くし、建物の品質を確保する事ができると思いますし、何よりも「お客様」の利益を守る事が出きると思います。


私が言いたいのは、「建築条件付の販売方法」が、いけないと言っているのではなく、その形態が隠れ蓑になり、設計の質の確保・施工の質の確保が、出来にくくなっている 現状に対して危惧しているのです。 お判り頂けますか?


と言った内容の、お返事を差し上げたのです。ところが、これを作成している間に、またまたレスが帰ってきました。短いメールの中で、想いを伝えると言う事は難しいですね。


でも、この Sさん のメールはチョット嬉しかったですよ。なぜなら、ご自身の仕事に、誇りもプライドも持っていられるから、このようなメールになると思ったからです。


このやり取りをご覧になった大勢の方から、ご意見を頂戴できるとありがたいです。Sさんが仰る通り、建築条件付の土地を選ぶ事は多いと思いますし、外せない選択肢の一つである事も承知しています。また、それ全てがダメだと申上げるほど、世間知らずでもありません。


少し私は黙っていましょう。皆さんのご意見、お待ちします。