建設業界で話題になる話と言えば、大抵の場合は悪い話。相変わらずの「欠陥住宅」や「贈収賄」や「談合問題」。たまには、良い話が出ないものかと周りを見回すが、どうも誉められた話題も見つからない。
そんな中で、ある美談として取り上げられた話題が一つ・・・。
宮城県の、ある町で建設を予定される「高齢者福祉施設」の設計入札の際に、ナント!設計報酬を1円で落札した事務所があったそうで、これが「日頃の町の福祉政策が、功を奏した美談」として取り上げられていました。
なるほど、物の見方には、いろんな解釈が成り立つのだなぁ~と、思わず笑ってしまいました。なぜって、これ「美談」じゃないと思うからです。
私はもともと、設計事務所が官公庁の仕事をするのに「設計料」で決める考え方自体に、疑問を持っています。官公庁にも設計料に対する予算があるのでしょう。ならば、その予算を最初から提示し、その予算内で「どんな良い設計をして貰えますか?」と建物の内容や質を問うことが、正しいと考えているのです。設計料が安くても、悪い建物だったら仕方ないでしょ?
話が反れてしまいましたが、「設計料を1円」で入札したことに対して、役所が「偉いね~君は・・・イイコイイコ」と言ったのだとしたら、バカとしか言いようが無い。
計画する建物の詳細までは判らないが、「高齢者福祉施設」と言うのだから、それ相当の建物なのでしょう。工事金額にしても億の単位になるかもしれません。だとすれば、その設計労力は大変な物です。その設計報酬を本当に「寄付」する善意があったのならば、正しい設計報酬を頂戴し、後から全額寄付すれば良いだけの話。なんで、これ見よがしにパフォーマンスをする必要があるのでしょう?その結果どんな影響があるか考えたのだろうか?
ひょっとすると、今回の話を免罪符に「福祉施設だから、通常より安い費用で仕事をしてくれ・・・社会貢献だから・・・」と、いろんな企業や官公庁が言い出したらどうするつもりなんだろう?あるいは、そうでなくても低い「設計報酬」に対する考え方が、より一段と「軽い物」と言うレッテルを貼られかねないと、誰が言えるのだろうか?
つまり、自分がカッコ付けたかっただけでしょ?そう言うのを「美談」とか「社会貢献」とは言わないと思います。本当に、設計者としての社会的責務と理念・理想を持って行った「1円での落札」行為だとするならば、なんとも分別の無い愚行だと言わざるをえないでしょう。
まぁ、こうなった以上、最後まで「良い建物」を造るという使命だけは、忘れないで欲しいですけどね・・・。