Essay 88 探偵の事件簿4 狼たちの対話

ハンドルに手を添えたまま、俺は考えていた。「一体なぜ、そんなことが起こるんだ・・・」
ことは一刻を争う・・・。はやる気持ちを余所に、車は渋滞に飲み込まれていった。


約束の時間より10分ほど遅れて着いた。「シマッタ!もう奴らが来ている・・・」俺は焦っていた。早くしなければ、奴らに重要な手がかりを抑えられてしまう。それだけはゴメンだ。ムダ働きになるのは、まっぴらだ。


奴らは機材を車両から下ろしていた。「ふん!機械で一体何が解る!」科学捜査第一主義は、どうも俺の性に合わない。俺は第一発見者を探した。見回すと、少し離れた場所で作業を見守る男がいる。「彼だな・・・」


彼に近づき言葉を交わす。「で、発見したときは、どんな様子だったのですか?」
男は静かに状況を話した。『えぇ、前々から、おかしいとは思ってたんですよ・・・。まるで鉄のような味がして・・・。そればかりか、誰も使っていない筈なのにクルクル回ってるんですから・・・。こんな事って有りますか?で、連絡して調べてもらったんですけど埒があかなくて・・・』


「鉄のような味か・・・血だな・・・」(違うと思うけど?)
事件の概略は解った。(それだけで解ったんかい!?)俺は、建物に機材を搬入する男たちとは別に、建物の外部を歩いてみることにした。


道路に面した東向きの玄関・・・そこを右に回ると隣家が接している。古いタイヤが数本と、みかん箱のような木箱が2つか・・・。俺は建物の西側に回った。植木鉢が少しと洗濯機が置いてある。今時、外に洗濯機がある家も珍しい。建物は古く、築30年ぐらいは経っているだろう・・・。そのまま、ゆっくりと建物の南側に回ると洗濯物が干してある・・・。犬走りには、じょうろや竹箒が乱雑に並べられ、季節はずれのポリタンクが2つ。


建物を一周して戻ってくると、先程の男は同じ場所に立っていた。男が声を掛ける。『何か解りましたか~?』あまり期待もしていないのだろう。その言葉から感じられた。
「一つだけ良いですか?」俺は男に尋ねた。「中は今日が2度目の調査ですよね?前の調査の時には、外は調べたんですか?」
『いいえ、建物の中だけで外は調べて無いと思いますが?』


やっぱり・・・。俺は確信し、男に言った。「謎は全て解けた!ジッちゃんの名にかけて!」
(おいおい・・・>.<)
『おおぉーー!(男のどよめき)』ちょうどその時、建物の中を調べていた男の一人が出てきた。俺の言葉を聞いた男が言った。『この方が、謎が解けたそうですぞ~』(キャラが変わってる・・・笑)


現場は色めき立った。全ての観客の視線が俺に向いている。謎解きとは、こう言う舞台でこそ披露されるべきなのだ。(観客って、誰だよ~?)


ここで、読者諸君への挑戦と行こう。私は何の話をしているのかを、ズバリ当ててみたまえ。
(解るか!そんなこと!)

では、事件のお浚いをしておこう。今回の調査内容は、次のようなものだった。築30年程経つ民家が今回の現場だ。家人の話に寄れば、数ヶ月前から水の味に違和感を感じたらしい。(この時点で私は、毒物混入事件かと色めき立つのだが違ったらしい・・・あたりまえ!
水道料金も少しずつ増え、いぶかしみ始めたとのことだった。ある日、水道を全部止め、メーターをチェックすると・・・使っていないはずのメーターが、クルクル回っているのに気が付いた。水漏れだ・・・。

そこで、水道業者に調べてもらったのだが原因が解らず、「建築探偵」の私の元に調査の依頼が来たのだ。だが水道業者も「解りませんでした」では引っ込みがつかなかったのだろう。再調査の今日、私と、かち合ってちあってしまったという訳。さて、本文に戻ろう。

俺は水道屋さんに尋ねた。「中は本当に問題ないのですか?」彼は、職人の意地にかけてと言う。ふん!こんなことも解らずに“職人の意地”が聞いて呆れる。
「本当に解ったのかぁ?」と尋ねる水道屋さん・・・彼のプライドが許さないのだろう・・・。
「まだ解らないのか君たちは。宜しい、一つだけヒントをあげよう。それはテープ」


水道屋さんは、何の話をしているのか、解らない様子だった。仕方なく俺は続ける。
「良いですか?この建物は古い。当然、水道管だって新築当時のままでしょう。ならば聞きますが、地中に埋められている水道管の材質と、土に接していない水道管の材質は?」
「当然、違う・・・」と水道屋さんは答える。


「チッチッチ」俺は人差し指を振ってみせた。(やってないだろ~・そんなこと)
「それは今の常識だ。今では土の中に埋める配管はHTVP(硬質塩化ビニール管)が常識だけど、30年も昔だと、きっと鉄管が使われている筈だと思います。だが30年前だって“防食”と言う概念は有ったでしょう・・・。となると、残された個所はただ一つ」


俺は建物の西側に回り、洗濯機の前に立った。
「土の中に埋められる鉄管には、防食テープと言う腐食防止用テープが巻かれるのが常識です。ところが、地面から突き出す”縦管”に防食テープを巻き忘れることがあると思いませんか?土に埋まっているのが、ほんの数センチだからと言って、巻かないことが・・・あるいは巻き忘れることがあると思いませんか?」


俺は2槽式の洗濯機を横にどかした。外壁に這うように露出で配管された水道管の足元を掘ると・・・・・「あった!」地中を走る配管から、立ち上がる縦管20cm程に防食テープが巻かれていなかったのだ。


そして赤く錆びた鉄管の一部から、水が漏れているのを発見したのだ。


俺の仕事は終わった・・・後は彼らの仕事。今回は初めてカッコ良かったぞ~と、一人ほくそ笑みながら、颯爽と車に乗ろうとした時、私を呼び止める声が。賞賛の言葉など、もういいのに・・・。振り向く俺に、家人が言った。『カバン忘れてますよ~』 アタ~(>.<)(カッコわる~~~爆)


都会のコンクリート・ジャングルに生きる一匹狼。相棒は死んだ友が残したコルト・ガバメントだけ。

                                                       続く