現在では多くの設計者がインターネットを利用して、クライアントとの出会いの場を模索しています。勿論、かく言う私も同じですが。これは個人あるいは小人数で設計活動を行う設計事務所と言う業態には、大規模な宣伝を行う資力や財力が無い事が一つの要因だと考えられます。
また日本と言う国に「設計者」と言う職業や技術、あるいは技能に報酬を払うと言う慣例や習慣が無かった為に他なりません。その為、個人や小人数での設計事務所は、生き残るために住宅メーカーの下請けドラフトマンになったり、建設会社や不動産会社に依存するしかないような状態が生まれました。
そんな状況を少しでも改善し、正しい形での設計活動や、正しい形での建築行為を遂行すべく、インターネットによる広告活動が行われているのだと思います。
そんな設計者と施主を結び付けるためのサイトも、数多く存在しています。そして、その結び付け方にも様々な形があるようです。
例えば施主が設計者を探している場合に、その情報や建物に関する要望を公開し「私が設計したい」と名乗りをあげる設計者を募る方法です。設計者は自分のプロフィールや、設計理念などを書き綴った「プレゼンテーション・ツール」を作成し、施主に提出します。施主は地域や考え方などを考慮して、設計者との面接の場を設け、最終的に決定するという方法です。
そうかと思えば施主が自分の要望を提示し、その内容に沿って設計者がプランを作り上げて提案すると言う、所謂「コンペ形式」を取るサイトも有るようです。この場合コンペを依頼する施主も、若干ですが費用が掛かります。そして何を隠そう、図面を書く設計者の方も「参加費」の名目で費用が掛かったりするのです。
小規模事務所にとっては、それでも設計の仕事が欲しいのだと思いますし、施主にしても小額の費用で数多くの設計事務所のアィデア案が手に入るのだから、願っても無いことでしょう。
でも本当に、これが正しいやり方なのでしょうか?もし私が、このコンペ方式での施主の出会いを望むとしたら、プランを考えるために時間をかけ、他の仕事を調整してでもプランを作り上げることでしょう。そして練りに練ったプランを、お金を払って施主に提案するのです。「どうぞ私の案を選んでください」と・・・・・。
ですが設計作業の一番大切な部分とは、練り上げた構想に基づいて「設計図」を書き上げる作業では有りません。何も無い白紙の紙に、どんな家が良いのかを構想し、コンセプト・・・つまりその家、建築に対する設計コンセプトを練り上げる「基本計画」こそが大切な作業なのです。
勿論、実施設計作業、監理作業が、どうでも良いと言っているのではありません。どれも重要な仕事であることに変わりは有りません。でも完成された基本計画があれば、それに基づいた実施設計図は他の人でも書けるのです。監理作業とて同じです。設計図を元に工事の適正さや、図面との食い違いの監理は他の人にも出来る作業なのです。
ですが、「基本計画」だけは違います。私の考えや理念や理想、住宅に関する想いに基づいて、他の人が基本計画を出来るでしょうか?絶対に不可能です。
数多くの優れた基本計画図を前にして、「この中からどれが良い?」と選ばれているようでは、設計者の基本計画とはナント報われない作業なのかと言わざるを得ません。それでも選ばれた計画案は良いでしょう。では選ばれなかった多くの計画案はどうなるのですか?
そして、その作業を繰り返すことが「設計者」に残された、ただ一つの道だとしたら、ナント先の無い仕事なのでしょうか。それが良質な住宅に繋がるかと言えば、私には自信が有りません。
今回、私が「インターネット・デザイン・オフィス」をイベントとして立ち上げましたが、永続的に行うつもりは有りません。いえ、出来ないと言った方が正しいでしょう。
極小地や変形地と言う土地に、住み手の要求を満足させるプランを練ると言う作業は、皆さんが思っているほど生易しいものでは有りません。狭い土地と言っても、30坪も有るような土地なら15分も有れば、それなりの絵は書けるでしょう。
何も考えずに間取りだけを嵌め込むパズルならば、きっと学生でも出来るでしょうし、住宅展示場に行けば直ぐに書いてくれるかもしれません。でも住宅展示場に15坪の土地の絵を持って行けば、断られてしまう場合がほとんどでしょう。つまり自社製品である建物が入り難い土地、あるいは儲からないような建物は相手にされないのが実情なのです。
それでは、そんな土地にこだわる住み手の家は、一体誰が考えてくれるのですか?紛れも無く、個人あるいは小人数の設計事務所でしかないのです。
今回のイベント企画、正直言って「やろうか?やるまいか?」迷いました。知人に「そんな企画、誰も問い合わせが無いかもよ?」と言われました。別の知人には「所詮、図面なんかタダだと思ってる人ばっかりだよ」とも言われました。そうなのかもしれません。あるいはハウス・メーカーが、展示場で書く図面と同じ物と思われるかもしれません。ひょっとしたら1件も問い合わせが無いかもしれません。
それでも私は敢えて企画を打つことにしました。小さな街の名も無き設計士でも、「設計のプロ」で有りたいと願ったからです。
近い将来、設計者・工務店・ハウスメーカーと言った建設関係の図式が大きく変わると思います。どう変わって行くのかは、正確には私には解りません。ただ、この状況でいつまでも良いと思っていないと言うことです。そして多くの人たちが今、静かに動き出しているのを知っています。
それは各人の会社や組織の生き残りを掛けただけの動きではなく、紛れも無くクライアントの建築物を正しく造り挙げることを目的にしているからです。そして誰よりもそれを強く望むのは、紛れも無く「住み手」である施主なのだと思います。
これをお読みになった皆さんが、どう判断されるのかは解りません。でも、たった一度だけの「インターネット・デザイン・オフィス」は、今、実験として立ち上げます。宜しくお願いします。