Essay 112 対面式キッチンを考える

「キッチンは対面式にして欲しいんですが」
「なるほど。で、なぜ対面式をご希望なのですか?」
「なぜって子供の様子も見られますし・・・家族とのコミュニケーションが出来るでしょ?それに一人で食事の支度をしていると孤立しているような気がして・・・」
「なるほど・・・そうですよねぇ~。ちなみ今、食事の支度をしている時は、ご家族はどうされてますか?お皿を並べてくれるとか、食べた食器を下げてくれるとかは?」
「それは無いですねぇ。子供も主人もテレビを見てますし、食べた食器はそのままで・・・。でも対面式の流しになったら、子供も食事の支度を手伝ってくれるでしょうし、片付けだって手伝ってくれると思います」



今の台所の主流は、やっぱり対面式のキッチンが多いようです。上のような会話は良くあることで、大抵の主婦の方が対面式の流しをご希望されますが、それじゃあ対面式の流し台って本当にそんなに良いのか検討してみましょうか?


【対面式のメリット】
・台所が孤立しない
・空間を広く見せる事が可能
・家族とのコミュニケーションが取りやすい
・お客様が来たときにも、お茶などの支度をしながら対応できる
・我が家で一番高価な流しを自慢しやすい


まあ、最後のは冗談だとしても、大方こんな所に代表されると思います。じゃあ、デメリットは?


【デメリット】
・流しを絶えず綺麗にしておかないといけない
・収納スペースに難が有る場合もある
・調理臭や煙が他の部屋に流れる可能性もある
・生ゴミや、その他のゴミ類のストック場所に工夫が必要
・換気扇の音が煩いときもある


なんて感じですかねぇ~?もっとも対面式をご希望される方の多くは、冒頭の会話のように「コミュニケーション」の部分を最重要に考えられている場合が殆どだと思います。中には幻想や理想に近い場合も有り、対面式の流しを設けただけで、そこまで出来るかなぁ~?と心配になってしまうこともありますが。


例えば流し台の形状一つで、今までお皿一つ並べた事も無いような子供が、急に手伝うようになるとは考え難いのですが・・・。そりゃあ~確かに、今までよりも母親の仕事を目にするので、興味を抱く事は推察できますが、それが全て「親の理想どおり」に行くかと言えば疑問を感じます。


洗物だって同じ事ではないでしょうか?片付けの苦手な主婦が対面式キッチンを選択すれば、その苦労は並じゃ有りません。初めのうちは、それでも頑張るでしょうが、食事の支度は1年365日毎日の事です。しかも一生続く事で、本当に頑張りきれますか?


勿論、だからお止めなさいと言ってるつもりは有りません。言われた通りに対面式の流しを設置するだけならば誰でも出来ます。「そこで、もう一工夫してみたらどうでしょう?」と言うのが設計屋さんのお仕事。
例えば、普段は開放された対面式キッチンが扉一枚で仕切れるようになれば、洗い物の溜まった流しを不意の来客に、お見せするような事はしなくてすみますよね?


もっと言えば、流し台の上にピアノやオルガンのように蓋をして、テーブルのような使い勝手が可能にするとか、思い切って流し台を中心にした間取りを考えてしまうとか、いろんな事が考えられます。
大切なのは常識的な判断に捕らわれて、自由な発想が出来なくなると詰まらないですよね?・・・・・ってこと。


「対面式キッチン」は女性の夢みたいな部分がありますが、それを現実のもにさせるには「形」だけではダメで、その前準備が必要だと思うのです。


子供って母親の真似をしたがるときがありますよね?お皿を出してみたり、卵を割りたがったりと興味を示すときが有ると思うのです。その時に危険だから、出来ないからと言って子供の興味を削いでおきながら、「大きくなったから手伝え」あるいは「流しの形が変わったから手伝って欲しい」と考えるのではなく、「親も安心して楽しみ、子供も興味を伸ばせる」と良いと思っているのです。


そこまで考えられたら、ただの対面式キッチンがもう一捻り出来ると思いませんか?流し台一つが全てを解決してくれそうな錯覚を起しますが、やっぱり大切なのは今までの積み重ねだと思います。
部品や綺麗な写真に誤魔化されるのではなく、「何が大切で、そう思ったのか?」を、もう少し深く掘り下げてみたいですよね。そしてご自身や家族にとって最良の選択をしたいものだと思いますね。