一日の疲れを癒そうと、たっぷりと張った湯船に体を沈める。手足を伸ばし、全神経が弛緩していく瞬間、あまりの心地良さに思わず目を閉じてしまう――。
そんな経験、どなたにも一度はありませんか。この目を閉じると言う行為、これが聴覚を研ぎ澄ますことに繋がりのです。そして聴覚を研ぎ澄ますことが、心身のリラックスに繋がるという面も持っているのです。
人は視覚からの情報が少なくなると、他の感覚から情報を得ようと敏感になります。特に耳からの情報は重要です。そして入浴中に聞こえてくる音楽や自然の音は、時として人に安心や落ち着き、あるいは癒しをもたらせてくれます。
人の脳波の中には、寝ているときに発せられるアルファ(Α)波というものが有りますが、これは目を閉じて、じっと静かにしている時に出やすい脳波だと言われています。さらに心地良い音楽などが流れていればアルファ波は効果的に発せられ、心身共にリラックスした状態になるのです。
これは入浴中に灯りを消し、静かに音楽を聴いているときの状態に似ています。最近では浴室にラジオやCD、あるいはIpodを持ち込んで音楽を楽しむ方も増えているそうですが、こうした癒し効果を、無意識に得ているのかもしれません。
また音楽を聴くのではなく、歌う方もいますよね。適温のお湯に浸かり、思わず浪曲を一節、唸ってしまう。いや、歌う曲は人によりますが・・・。 ですが浴室特有の反響を利用して、エコーを利かせて歌ったことはありませんか。この歌を歌うという楽しみ方も、浴室での聴覚を利用した楽しみ方の一つだと思います。
音楽の他にも聴覚を使って楽しむ方法としてはシャワーヘッド、シャワーヘッドから流れる水の音を楽しむという物もあります。滝の音や川の流れる音、あるいは波が打ち寄せる音といった具合に、水の音には人の心を癒す効果があると言われています。
温泉に行くと、浴槽に温泉が流れ込む物がありますが、あの音を聞いているだけで、なんだか落ち着いた気分になるのも、そんな効果の一つなのだと思います。
この音を聞くと言うときには、浴室内の明るさも関係してくる場合も有ります。つまり聴覚で楽しむときには、視覚がサポートすると言うことです。この場合のサポートとは、見せることではなく、見せないという意味でのサポートの方が大きいと思います。つまり浴室内を暗くして、聴覚を研ぎ澄ますという感じです。
音楽は勿論ですが、水の音、風の音、あるいは雨の降る音なども、時には疲れた心を癒してくれると思います。普段は気にしない、そんな小さな音を聞くために、少し暗いぐらいの方がちょうど良いのです。そしてそれらが楽しめる浴室の造り方が、設計時には必要となります。
週末の夜、少し明かりを落とした浴室にラジオを持ち込み、ゆったりとした気分で過ごされるのも、また普段と違うリラックスの方法かもしれません。ただしご年配の方は、暗くすることで転びやすくなる可能性も有りますので、ご注意下さい。足を滑らせてしまっては、癒しどころの話ではなくなってしまいますからね。
家を考えるとき、浴室のあり方や楽しみ方に対するイメージも、こうした小さな点から膨らませて考えておくと、<日常と非日常的>での、二通りの楽しみ方が可能になります。ひょっとすると、癒し効果も二倍になるかもしれませんので、是非お試しを。