ダンシング・ヒーロー


歩いて上っても、ヒーヒー言いそうな急な坂道を、年の頃なら70代位のおじいさんが上っていた。
おじいさんは麦藁帽に長靴を履き、年季の入った野良着姿。
どこから見ても、これから畑へ行く作業着姿。
そのおじいさん、坂道を徒歩で登っていたわけではない。
変則ギアの付いていない、ママチャリに乗っていたのです。
たぶん私がギア付きの自転車に乗っても、あの坂を上るのは無理だと思える道を、おじいさんは止まりそうなほどゆっくりと、しかし決して倒れることなく悠々と登っていく。
自転車のロードレースで、坂道を登るクライマーが体を左右に揺すりながら自転車を漕ぐ、ダンシングの姿勢を華麗に決め、体をリズムよく右に左にと揺らしながら登って行くのでした。
あのおじいさん、きっと名のあるクライマーに違いない。
ロード・レース
近藤史恵さんの『サクリファイス』を読んでいるので、かなり気になったおじいさんでした。