2015年1月、大阪市中之島にある「銀星ホテル」のスイート・ルームで、5年の長きに渡る年月を暮らしていた梨田稔という男性が死んだ。遺書こそ無いものの、状況から判断して警察は自殺と結論付けるのだが、その結論に納得しない女性がいた。同じホテルのスイートルームを、定宿にしている大物女流作家の景浦浪子だった。彼女はミステリ作家の有栖川有栖を介して、その友人である名探偵の誉れ高い大学准教授・火村英生に死因の解明を依頼する。死んだ梨田とは、いったい誰だったのか? そして死因は自殺なのか、あるいは他殺だったのか—。火村シリーズ13年ぶりの描き下ろし長編小説。
500頁を超す長編小説ですが、350頁ぐらいまで読み進めても、劇的に何かが変化するとか、誰かが死ぬと言った展開はありません。ただただ静かに一人の男の人生を探り、そこにどんな秘密が隠されていたのかをトレースしていきます。ともすれば単調に進んでいきそうな展開なのに、引きずり込んで離さない筆圧の高さは、静かな展開であるがゆえにその熱量の高さを感じます。謎解きも含めた後半のスピード感も、お見事でした。
稀に「文芸は読むけどミステリは読まない」と言う方が居るようですが、それはミステリ小説を誤解しているのでしょう。あるいは食わず嫌いと言っても良い。本書は「謎が提示され、それを解く」というミステリ小説のプロセスの妙を、楽しむことが出来る一冊だと思います。