88年に出版された夏樹氏の作品で、クリスティの『そして誰も居なくなった』を、バスティーシュしている。逗子から沖縄に向けて出発した豪華クルーザーの中で、次々と起きる殺人事件。ダイニングには乗客の干支の人形が飾られ、殺人が起きるたびに被害者の干支の置物が消えていく—と言う感じの展開。
この類の作品の場合、生き残っている人が少なくなるほど展開が難しくなるし、過去には幾つものバスティーシュあるいはオマージュ作品が発表されており、その帰結方法にもかなりのバリエーションがあることを知っている。だからこそ難しいし、それが分かっているからこそ、この類の作品を見付けると読んでしまう。ただしスレたミステリ読みを唸らせるのは、至難の業。それでもこの類の作品を見付けると手に取ってしまうのは、「驚かされたい」の一言に尽きるだろうね。でもミステリを読まない方やクリスティを知らない人が読むことは、お薦めしない。