『鳥 デュ・モーリア傑作集』 ダフネ・デュ・モーリア著/読了

ある日突然、鳥の群れが人間に襲い掛かる。いったい鳥たちに何が起こったのか! 表題作の『鳥』をはじめ、短編八作が収録されています。どの作品も凄く完成度が高く、それぞれが違った魅力を持っていて、正直ビックリしました。

偶然入った映画館の受付嬢に一目惚れをした青年が、彼女の後を付け同じバスに乗り込むと、彼女は「墓地の前のバス停で起こして」と告げて青年を墓地に誘う。という、何処か甘い期待を感じさせる『青年』は、恐怖と同時に切ない恋愛物語にもなっています。「モンタ・ベェリタ」と呼ばれる山に住む不思議な人たちと、奇妙な体験を描いた『モンタ・ベェリタ』は、幻想的でファンタジーのような雰囲気ですが、これがなぜか大人向けのファンタジー。

性格の合わない嫌な妻が死に、ホッとした男。だが生前、妻が大切に育てていた林檎の木が、なぜか妻のように感じ始め、恐怖を感じていく『林檎の木』。湖のほとりに住む奇妙な爺さんと、その家族の不可解な行動を描いた『番(つがい)』は、ガチガチのミステリ。

散歩に出掛けた女性が家に戻ると、そこには見知らぬ家族が住んでいたという『避けた時間』。資産家の夫と幸せな結婚生活を過ごしていた妻は、出産を間近に控えたある日、拳銃で自殺をする。理由が分からない夫は探偵を雇い、妻の自殺の原因を調査させるという『動機』は完全なミステリ。しかも探偵のブラックは、ハード・ボイルド。

他にも、避暑地での情事を描いた『写真家』や、ヒッチコック監督の映画でも有名な『鳥』の原作が収録されています。物語の独創性や意外性、筆圧の高さ、そして吸引力の強さと、どれを取っても天才か! と、思わせる完成度の高さ。短編集でこの充実度は凄いです。今度、『レベッカ」を読み直します。

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