なんじゃこりゃ? それが素直な読後の感想。ろくに仕事もせずに、競馬場に入り浸る飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーン。机の引き出しにスコッチのボトルと拳銃は入っているが、けしてハードボイルドなんかじゃない。なぜって依頼は、まるで滅茶苦茶だから。
死んだ筈の作家セリーヌを探してくれだの、宇宙人から守ってほしいだの、赤い雀を探し出せだの、とにかく舞い込む依頼内容がチョーテキトー。依頼人も死神だったり宇宙人だったりと、有り得ない輩ばかり。そんな依頼を時給6ドルで引き受けるのだが、仕事なんかまともにしないビレーンは、とにかくバーと競馬場と女としけ込むことしか考えていないろくでなし。それなのに、なぜか依頼が上手く解決してしまうから笑ってしまう。ちょっと汚い言葉が連発するけど、けして下品じゃないところが、また面白い。ブロウスキーも凄いけど、訳者の柴田元幸さんも凄いのだろう。
書名の「パルプ」は、質の悪い紙を使った大衆紙の「パルプ・マガジン」に見られる、安っぽく下卑たジョークや悪ふざけをイメージさせたオマージュらしい。愛すべき「パルプ」なのです。そのせいかとても読み易いのです。