『濱地健三郎の霊なる事件簿』有栖川有栖 著/読了

本にも、その本を読むのに適した季節があります。例えば春、いつもより早く目覚めた朝に読むと、物語がグッと心に迫る本あれば、秋の夜に虫の声を聴きながら読むと、大きく感情を揺さぶられてしまう物語もあります。それはきっと物語の季節や背景、イベントや出来事を知っているからこそ、よりその世界観に浸ることが出来るからでしょう。

本書『濱地健三郎の霊なる事件簿』も、晩夏のこの時期に読めて良かったと思う本でした。不可思議なモノを視ることの出来る心霊探偵が主人公なので、幽霊なども出てきますが、「怪談=夏の風物詩」だから、この季節が良いという短絡的な意味ではありません。

普通の人には視えない何かが視え、それらが持つ悲しみや怨み、想いと言った念を綺麗に浄化させてくれる様が、とても静かなのです。夏の喧騒ではなく、それが終えた後の静けさのような空気が、とても似合っています。有栖川さんらしい優しい作品です。

book20170727.jpg