法定福利費という言葉を聞いたことがありますか? 建設業界で「法定福利費」と言えば、2013年頃から国が厳しく指導し始めたもので、建設作業従事者において一次下請けをはじめとした各種下請け会社の作業員たちが、社会保険制度に正しく加入できることを目的とし、元請会社に見積りを提出する際には「法定福利費」という項目を新たに設けて、作業者の社会保険料を正しく請求するようにと指導したものです。その見積書を受け取った元請会社は、何かの事情で下請け会社から提出された見積金額を減額調整する必要が生じても、法定福利費だけは減額しちゃあダメよ――と、言う性格のものです。
当然、下請け会社に対しては、元請会社から受け取る法定福利費を基に社員の社会保険は正しく加入してね――と言うことが大前提。ただし残念ながら個人事業主はこれに含まず。つまり一人親方のような場合は例外ということ。ここまでは理解しているつもりですし、なんら疑問はありません。問題は元請会社が事業主=施主に提出した見積書に「法定福利費」という項目が書かれていた時のことです。
例えば家を建てる時、工務店やハウスメーカーが作成する見積書には「諸経費」という項目があります。この諸経費は「工事費の〇〇%」と記載されていることが多いのですか、この諸経費の中には「現場経費」と「一般管理費」の二つの費用が含まれています。
「現場経費」とは、その工事を完成させるために必要な費用のことで、現場監督を含む元請会社の作業員の給料や社会保険料、火災保険や労災保険料、その他の税金や事務用品を含めた消耗備品を指しています。
「一般管理費」とは、元請建設会社存続のために必要な経費のうち、会社全体の社員の人件費や会社の施設維持管理費用、その他各種税金や広告費と言った雑費の中で、その工事現場が負担する必要分の意味だと理解しています。科目は建設会社によって若干違うのですが、だいたいこんな感じだと思います。
察しの良い方は既にお分かりかと思いますが「諸経費」の中に、社会保険料が含まれている訳ですよ。「諸経費」で計上していながら、さらに「法定福利費」という項目を、別項目として計上している見積書を見たことがあるので、これだと社会保険料を二重に計上してないですか? という疑問に感じたわけです。ひょっとすると法定福利費を計上しているので、その分を諸経費から引いてますと言われるのかもしれませんが、それなら諸経費の項目を全部教えて下さいよ――って思っちゃうわけです。
今までも諸経費に社会保険料は含まれていたわけですから、その金額で社会保険料を支払っていたわけでしょ? それとも社会保険料を支払っていたのは元請会社だけで、下請け会社から提出される見積書には「諸経費」という項目は無くて、仮にあったとしても減額する際に削除していたってことですか? つまり今までは元請の諸経費は守るが、下請けの諸経費は知らないと対応していたことでしょうか? あるいは今までは下請けから提出される見積書に諸経費と言う項目は無くて、「一式〇〇円」という記載方法しかなかったということでしょうか。
国交省が指導したかったのは、「法定福利費」をしっかりと確保すべきは、あくまでも下請け会社であり、守るべきは下請け会社で働く作業者の方が、正しく社会保険制度に加入できる建設業界の体質を作る事だと理解しています。けして元請会社が事業主=施主に、その費用をさらに請求することを良しとした指導ではないと思っています。
ただし「法定福利費」の項目を、元請会社が事業主(施主)に提出する見積書に記載するケースもあります。それは公共事業や大規模な民間事業の場合です。ですが個人住宅の場合でも、この法定福利費を計上することが一般的に正しいとなれば、小さな住宅の場合でも数十万円から百万円の単位で金額が変わってきてしまいます。私が見たことのある住宅の見積書には、法定福利費を全体工事費の3%と規定し、計上されていました。勿論、消費税は別と言う計算です。例えば2000万円の住宅の場合には、3%の60万円を法定福利費として計上し、それらの合計額2060万円に10%の消費税206万円を足した2260万円が総合計金額となるわけです。66万円の差って大きいと思うのですよ。しかもその3%の根拠も不明です。それほど大きな金額差を「当社はこの方式で見積書を作成しています」と言われても、それだけじゃあクライアントに納得のいく説明をすることが私には出来ません。
設計作業を依頼された時に、一番胃が痛むのが見積書で予算がオーバーしていた時です。あと50万、あと30万円を減額しなければと頭を抱えている時に、謎の項目が計上されていたら、どうしても「これな~に?」と、なるわけです。ですが私の認識不足、勉強不足で理解できていないだけならば正しく理解したいので悩んでいます。一度、国交省に問い合わせてみようかと思っています。