現役の建築家が書かれた館物の本格ミステリで、第62回江戸川乱歩賞最終候補作です。現役の建築家さんですから、まずは本格的な間取り図がバッチリ掲載されています。一般的な図版ではなく、スケールアウトした設計図と言った方が良い代物です。私、本章を読み始める前に、かなりの長い時間その設計図(あえて設計図と呼ばせて貰います)を、眺めてしまいました。図版(間取り図)好きで、しかもこちらも同じ建築士ですから、本物の建築家さんが描いた設計図なら、余計入念に眺めてしまいます。そしてその段階で彼是と悩んでしまいました。帯にも書かれているので触れてしまいますが、図面を正しく読める方が、「本物の設計者が書いた設計図」という前提で睨んだら、間違いなく違和感を覚えます。私だって誤植かな? いやそんな筈は無いな、だって本物の建築家さんが書いた設計図面なのだから―――と、ずっとそこで悩んでしまいました。そんな違和感を抱いたまま読み始めたのですから、少し読んではまた図面を眺め、また少し読んでは図面を眺めていました。
さて内容ですが、登場人物たちは、ほぼ全員建築関係者。設計事務所のグループとインテリアデザイン事務所のグループが、断崖絶壁に建つ屋敷に招かれます。屋敷と言うよりは、ゲストハウスと呼んだ方がイメージ的には正しいですね。その建物には「ヴィラ・アーク」の表札が飾られていました。建物は主がセルフ・ビルドで建てたという豪華な館です。しかし楽しい筈の旅行に奇妙な事件が起こります。ゲストの一人が連れて来た黒猫が姿を消したことをきっかけに、一人、また一人とゲストが消えてしまったのです。そして館は、おりからの台風に襲われてしまうのです―。
本作は館ものであり、社会派でもある作品と評されています。まだ事件が起きる前には、館内の其処彼処に置かれたデザイナーズ・チェアの話に花が咲き、デザイン談義も楽しめます。ただ……この建物の巨大さから言って、セルフ・ビルドは不可能です。冒頭からそこにも引っかかってしまったので、スンナリと話が入ってこなかったところがあります。また……は……なのかと、ずっと悩んでしまいましたが、結局……が……だったので、私には違和感だらけで物語に没頭することが出来ず、それだけが残念でした。結局、肝心な話は何も書けませんね。ですが建築好き、館もの好きの方は楽しめる作品だと思いますので、是非。