『硝子の塔の殺人』知念実希人 著/読了

知念実希人さんの新作『硝子の塔の殺人』を拝読。原稿は初稿・二稿・三稿とお預かりし、その度に何度も読み返しましたが、あの時は作品を楽しむという視点ではなく、あくまでも建築的に視覚化することだけに注意して読んでいたので、物語を楽しんで読むということは出来ませんでした。ですからこうして本になった物を読ませていただけることは、いちミステリ・ファンとしてやっぱり楽しい。間取り図や立体図を見返しながら、「ふむふむ」と、多くの読者の方と同じように楽しませていただきました。

雪深い北アルプス山中、人里からも遠く離れた場所に燦然とそびえ立つ硝子の館。そこは化学者として成功した大富豪・神津島太郎の館。神津島はミステリ・グッズのコレクタ―としても有名で、数々の貴重なコレクションをその尖塔に展示していた。そんな硝子の館に刑事・料理人・医師・霊能力者・小説家・編集者そして名探偵の7人が招かれた。集められたゲスト7名と館に使える執事・メイドを合せた計9名の前で、神津島はとても重大なことを発表するという。だがその矢先、神津島が自室内で殺されてしまう――。クローズドサークル、密室殺人、怪しい招待者の面々と舞台は整った。さあミステリの時間です――って感じです。

出版社様からいち早く頂戴したフラゲ版の二冊の他に、三省堂書店池袋本店の主催するオンライン・サイン本も、申し込ませていただきました。コロナ禍のこんな状況ですし、簡単にお目に掛かって「サイン下さい」と言える状況でもありませんからね。それに頂戴した二冊は、あくまでも仕事の対価として頂戴した物。ミステリ好きなら、やはり自分で買わないといけません。と言うことで、為書きとサインをいただきました。

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書籍に描かれた各階の間取り図や立体図の他に、その形に至るまでのスケッチや断面図、その他外観のイメージ図などの資料がありますが、それはあくまでもバック・データなので公開出来ません。ただ原稿を読ませていただいた時に、頭に思い浮かべた実際の建物が数か所ありました。その程度の話なら書いても叱られないと思うので、少しだけ書いてみます。

思い浮かべた建物の一つは東京六本木に建つ「国立新美術館」。この建物のどこが何の参考になったのか、あるいはどのイメージに繋がったのかは、既に本を読まれた方には想像が付くでしょう。まして国立新美術館に行かれた方なら尚更のこと。できればここの1階ロビーで、作品を読みたいぐらいです。設計は黒川紀章氏。

国立新美術館 | 東京都の美術館

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もう一つの建物は、宮城県仙台市にある伊東豊雄氏が設計された「仙台メディアテーク」。1階オープン・スクェアのガラス製の円柱が並ぶ空間を思い浮かべました。ガラス製の円柱の中には、白い鋼管製の円柱が何本も連なり建物を支えています。その空間はシャープで透過性があり、抜けて洗練された空間が、硝子の塔に近いのでは? と、考えたのです。小説の中の建物とは言え、ある程度こんな感じで考えれば、実際に建てることが可能なのでは? と言った、実現可能な建物をイメージするのは仕事柄当然のことなので。他にもたくさんの建物を参考にさせていただきながら、図版の作成にご協力させていただき、楽しかったです。

美術手帳 仙台メディアテーク 

知念実希人氏の新刊『硝子の塔の殺人』、館物が好きな方、コテコテのミステリ好きの方が読まれても楽しめますし、全くミステリを読まれたことの無い人が読んでも楽しめる作品ですので、是非ご一読ください。