設計事務所が図面を書き上げると、次の作業は見積もりの依頼です。書き上げた図面を建設会社に渡し、見積もりの依頼をします。見積もりに要する期間は建設会社の規模や、その時の混雑具合によっても違いますが、3~40坪程の木造住宅で3~4週間ぐらい。少し凝った形状や傾斜地に建てる複雑な基礎を持つ建物だったら、もう少し期間は掛かると思います。いずれにしてもこの辺りの見積もり期間は、あくまでも受け手の建設会社の都合であり、依頼する側の希望で何とかなるものではありません。また1から10まで仕様が決まっているHMと比べ、見積もりに時間を要するのも当たり前の話です。
基本的に見積もり作業を引き受けて下さる建設会社は、サービスで見積もりを引き受けてくれています。工事金額を算出するために費やす時間は、経費も含めて一切の対価を請求されないことがほとんどです。つまり建設会社にしてみれば、見積もり作業に従事する社員は、その間、稼いでいないことになるのです。
家造りを指南するネットサイトの中には、「図面が書き上がったら何社かに相見積もりをして、その中で一番安い会社と契約すれば良い」と、平気で書いてあるのを見かけますが、それって少し乱暴な書き方だと思います。確かに見積金額の相場観を知り、適切な価格を判断するために数社に見積もり依頼することは「あり」だと思いますが、それはあくまでも依頼者側にとってのメリットを伝えているだけで、依頼される側の建設会社のデメリットには触れていないからです。もし相見積もりを推奨するならば、せめて契約に至らなかった数社の建設会社さんには、菓子折りの一つでも持って依頼者である建築主が、御礼とお詫びに行きましょう―――ぐらいは書き添えるべきです。
ですが、なかなかそう出来た建築主さんは多くありません。その原因の一つは図面を描いた設計者が、見積依頼をしてしまうことにもあると思います。本来、見積もり依頼は建築主が建設会社さんに行うものであり、設計者は建築主の代理者として、見積もり依頼をしているだけです。ですがそのことを建築主も設計者も、いまひとつ実感していないし認識していない。だから建築主は平気で「見積もりは5社あるいは10社に、お願いしましょう」なんて言うのです。もし建築主自身が建設会社に図面を持ち込み、「見積もりをお願いします」と、一社一社に頭を下げて依頼するとしたら、そんな無茶な話は言えない筈です。また残念ながら選から漏れた建設会社に対して、何の挨拶もせずに無視を決め込むなんて真似も出来ないでしょう。つまり相手が見えているかいないか、そして相手に対して最低限のマナーを持って接しているかいないかの違いだと思います。
また設計者が見積依頼の窓口となり、後日、提出された見積書の中身を精査し、建築主との間に立って意見や金額調整を行う作業は、【設計業務】ではなく【監理業務】として捉えられていることが一般的ですが、このことに関しても正しく理解していない建築主が多いと思います。見積もりを依頼する時点で【設計業務】は完了しており、見積もりを依頼するのは原則建築主の行う作業であり、それを代理者として設計者が行っているだけの話。そしてそれらの作業はすでに【監理業務】の範疇にあると言うことを理解し、気持ちよく健全な家造りを楽しみましょう。と言うことで来週には一件、御見積の依頼をします。