価格高騰分は誰が負担するのか

建設業界の情報サイト・日経クロステックに、日本建設業連合会の宮本洋一会長の記事が掲載されているのを読みました。要約すると、今、建設資材の価格は短い期間に急激に高騰しており、材料に拠っては一年前の二倍になっている物さえある。比較的に価格上昇の少ない物でさえも、19か月間の間に11~14%は上昇しているのが現状。この日々値上がりする材料費を、工事を請け負った建設会社が全て被ると言うのはおかしい。一般的に使用されている標準請負契約書約款にも、想定外の価格変動には発注者・受注者が協議の上、その負担割合を決めましょうと記載されているのに、民間工事の場合は話し合いのテーブルにさえ着いて貰えず、工事請負側が全てを被らざる得ない状況にある。これは不当だ――と、言う内容です。

宮本氏は清水建設さんの会長さんだと思うので、ここで話している民間工事とは工事費数億円規模の建物を指しているのだとは思いますが、住宅工事の規模でも同様の事例は多数起きています。数千万円の住宅工事において、総額で百万円以上も値上がりがあれば、建設会社の規模に拠っては、その一軒の受注が死活問題に直結します。建設工事は住宅規模でも半年程度の期間を要します。その半年の間に市場価格が変われば、当然その値段を払わなければ材料は手に入りませんが、その際の値上がり分を建築主に相談しても対応して貰えないどころか、碌に話も聞かずに怒り出すことさえあると聞きます。でも契約時の約款には、「そんな時には相談しようね」と書いてあるありますし、契約時にも約款の読み合わせで、その辺りのことは特に詳しく説明しているにも拘らずです。これ、不条理だと思いませんか? 私は思います。

「その金額で契約したのだから、材料の価格が上がっても文句言わずにその値段でやれ」という依頼者の気持ちも分かりますが、残念ながら今はそんな時期・状況ではありませんし、そんな契約にもなっていません。コロナ禍による世界規模での生産や流通への問題・ロシアの侵略戦争に拠る資材調達が困難・流通経路の遮断あるいは迂回・想定外の円安に拠る輸入材の高騰、どれ一つとっても数年前には予想できなかった事象ばかりです。それは建物を発注する依頼者にとっても、工事を請ける建設会社にとっても同じ話なのです。けして建設会社だけが、無理をして我慢すれば良いと言う話ではありません。そういう時期に、家を建てようとしている発注者側にも、同じだけのリスクが伴っていることを理解する必要があります。

元請け会社が窮すれば、その皺寄せは下請け・孫請け会社へと押し付けられます。結果的に大きな会社はギリギリで存続できたとしても、その現場の最先端で働く職人と呼ばれる小規模な会社や一人親方の職人さんたちが大きな負担を強いられることになり、仕事を続けられなくなっていくこともあるでしょう。そんな人たちの犠牲の上に、「私の家は安く建てられて良かった」ということになることが、本当に適切で健全な経済活動とは思えないのです。

じゃあどうすれば良いのか? 厳しい言い方をすれば予算ギリギリで全額フルローン、自己資金はへそくりも含めてゼロなんて人が、金利の安さに釣られて家を建ててはいけない時代なのだと思います。半年後には値上がりしている資材もあると想像し、多少の追加費用が発生しても対応出来る余力を残しておく必要があります。どのぐらい残しておけば良いのかは分かりませんが、あくまでも主観で言えば、工事費用の一割ぐらいは必要ではないでしょうか。額に明確な根拠はありませんが、コロナ禍以降の工事費用の上昇は、肌感覚で約2割程度の上昇と感じています。今後も同様に価格が上昇すると仮定し、その上昇価格を建設会社と応分の負担で対応が出来るとすれば、10%つまり一割あればなんとか……って程度の数値でしかありません。あくまでも感覚的な話ですし、費用負担が応分になるのかも分かりませんが、一つの目安として書いてみました。今は慎重の上にも慎重に、ことを進めるべき時期だと言うことを、お忘れなく。