最近は、使われなくなった建物を従前の用途以外に変更して
再活用するという計画が増えています。
例えば廃業したコンビニの建物を、デイ・サービス施設に変更する。
あるいは使われなくなった倉庫を改装して、病院として再活用する。
昔から古くなった建物のリフォーム工事はありましたが
最近、特に増えているような気がします。
なかでも景気に左右される店舗や事務所と言った建物が
少し見ない間に、違う店舗になっているケースをよく見ます。
店舗の移り変わりが激しいことは、けして良いことではありませんが
古くなった建物に手を入れ、再活用していく考え方は悪くはないと思います。
何と言っても新築するよりもコストを抑えられるし
転居する場合や開業までの準備期間が短くて済み、費用を抑えることにも繋がる。
また、壊す必要のない建物を再利用することは
経済的な損失を減らし、大きな意味では地球環境にも優しいですからね。
そんな建物の用途変更ですが、これには確認申請の手続きが必要になる場合があります。
凄く端折って書いてしまうと、建物の床面積が100㎡を超える場合
従前の用途と類似の用途で無い限りは、申請手続きを取る必要があるのです。
これは「飲食店の開業時には保健所の許可が必要」とか
「雀荘の開業」には警察の許可が必要と言った、他の法令とは別の話。
あくまでも建築基準法の話です。
ところがこの手続きを面倒と考え、行わない店舗オーナーが増えていることも事実。
そりゃそうだよね、だって99㎡ならば申請の必要が無いのに
100㎡になった途端に必要だと言われたって
「そんな少しぐらいなら、申請しなくてもイイよね?」って考えるのは、よく分かる。
でもね、ここで「ああ、そうですね」と、目を瞑ってしまうぐらいなら
「建築士さんとしては、0点です」と、言わざるを得ません。
誤解を恐れずに書いてしまえば、多少ならしょうがないか~と、思うことはありますよ。
でもね、それを建築士の肩書を付けた人間が、公言した時点でOUTだと思うのです。
それじゃあ、ちょっとぐらいの面積オーバーなら違反しちゃいましょうと
資格所有者が、お墨付きを与えたことになることを、忘れちゃダメですよね。
仮に店舗を開業した後に、行政の立ち入り検査などで違反が見つかると
施主・施工者・設計者には、罰金や懲役刑だってある時代です。
そんなものは怖くないというかもしれませんが
それじゃあ店舗を利用する、お客様のことはどう考えますか?
例えば違反した建物が、デイ・サービスや病院だったらどうでしょう。
違反内容を是正するまで、建物の使用禁止になることもあります。
その場合、一番辛いのは店舗オーナーではなく、その店舗を利用する利用者。
デイ・サービスの建物が使用禁止になってしまったら
利用している方は、一体どこに行けば良いのでしょう。
違反建築の病院で火事が起き、死傷者でも出たら、その病院長は、どう責任を取りますか。
そしてそれを承知していながら「まぁいいか」と、黙認した建築士や施工者の責任は?
今はリフォームなどの工事を受注するために、多少のインチキには目を瞑る
工事関係者も多いのかもしれませんが、その安易な発想が誰かの犠牲を生む可能性を
秘めていることを、忘れないように対応しなければいけません。
少し前に、診療所のお医者さんから
「違反建築前提で建物のリフォームを依頼したい」と、言われた経験があります。
申請手続きの必要性をご説明しましたが、ご理解が得られなかったので
謹んでご辞退させていただきました。
その診療所は他の建設会社が工事をし、普通に診療所として開業しています。
たぶん違反建築のまま……。
医者と言う立場の方でさえ、そんな程度の倫理感しかお持ちでない方も居る。
「コンプライアンス」とか「モラル・ハザード」と言う言葉をよく聞きますが
他者を指さす前に、まずは自分自信の立ち居振る舞いが、問われている時代なのです。