違法建築に携わる愚か

川崎市で簡易宿泊施設が全焼し、5人が焼死した事故。火災前の建物写真から推察すると、もともとは2階建てだった建物の小屋裏を不法に改装し、3階にしたように見える。収容人員を増やして、収益を上げるための改装だったのだろうか?
防火怠り3階を増築か 川崎火災、書面は「2階建て」
一般的には、どんな違反建築であっても、立ち入り調査を実施していない市建築指導課が、その実態を把握することは難しい―と、言う建前がある。だけど2階建てと申請されている建物が、外から見ても明らかに3階建てだと分かるような場合には、見て見ぬ振りの状態で、薄々その実態を把握している場合が多い。
だって誰が見ても「?」な建物を、専門家である指導課職員が見て、「分かりませんでした」なんて話は通じないから。もっとも、それをいちいち取り締まっていたら、キリがないという程、世の建築実態が荒れていると言われたら返す言葉が無いが、そんなに違反建築物が横行しているとは思っていない。とすれば、余計な仕事が増えるので、見ないことにしておこう!――なんて感じなのか?
ところが消防は、ちと話が違う。なんせ消防署は定期的に建物に立ち入り調査を行い、その実態を把握しているのだから。勿論、違反を見付ければ、直ちに改善命令や指導をする。が! 是正が成されたかまでは、追跡調査はしないらしい。悪質な場合には徹底的に改善命令を出すが、それだって民間の建物を違反しているから直ちに壊しなさい――なんて話にはならない。そんな感じで言われたら、それはそれで問題だしね。
という事で、違反を見付けても、所有者の良心に訴えて、適切な改善を指導するに留まる。そして次回の立ち入り検査の際に、「まだ直っていませんね~」なんて感じを繰り返すことになる。
そしてある日突然、不幸な事故が起きる。いや、こうなると事件と言ってもいいだろう。メディアは、こぞって「市が悪い」とか「消防の指導が不適切」と、悪者捜しを始める。それはそれで大事なことだが、一番問題なのは、そんな建物を造ってしまう所有者であり、違法と分かっていながら改装工事を請ける工事関係者の倫理観の欠如ではないだろうか。
たとえ法律を知らずに無理な要求をする建築主が居たとしても、百歩譲れば、知らないのだから仕方ない。だけどその相談を受けた専門家が適切なアドバイスを与え、その上で取れる対応方法を提案するか、あるいは無理だと諭せば良いだけのこと。
「まっ、そんな正論ぶつ奴は、こっちから御断りだ!」と、別の建設会社に行くであろうことは目に見えているが、それでもインチキな仕事はしない。その仕事をすることで、誰かが不幸になるかもしれない。誰かが怪我を、ひょっとすると死ぬことになるかもしれないと想像する力を、みんなが持てれば良いだけの話で、それを倫理感と呼ぶのではないだろうか。
「インチキ仕事でも法を犯す工事でも、金に成るならやっちまえ」という倫理観を持たない不心得者の悪事を基準にして、法を改正し、無駄な締め付けに走るのだけは止めて貰いたい。多くの良識ある建築の仕事に携わる者にとっては、迷惑以外の何物でもないのだから。
不幸な事故から学ぶことは、新たな法律で規制を強化することではなく、今の法律を犯すことの罪深さを反省することであり、同じ間違いは繰り返さないという自戒の念を持つことだと思う。犠牲者のご冥福を祈りたい。