少し前に、某引越し業者が女性芸能人の引っ越しを引き受けた際、部屋の様子を写真撮影してネットに公開するという事件があった。依頼主が芸能人だったから、少し得意になって調子に乗ったのかもしれないが、笑って済ませるには、ちと性質が悪い。芸能人であろうとなかろうと、引っ越しの際には、いろいろな情報がそこ彼処に見え隠れする物であり、それらを守ってこそのプロの引っ越し屋さん。男性でも女性でも、居を移すという事は不安になるものなのに、そこに付け込む下劣な犯罪は不愉快の極み。
そうかと思えば日本でも有数の某大手銀行では、銀行を訪れた芸能人の住所を家族に伝え、免許書の写真を撮るという愚行を行い、これまたその写真を得意げに身内に回すという犯罪を犯したそうな。これ、立派な犯罪ですから。
昨今、なにか問題が起きると直ぐに個人情報の守秘義務だ、企業倫理だと叫ぶようだが、そもそも個人情報などはダダ漏れ状態だし、企業の倫理とは社員一人一人の誠実さと賢さの上に成り立っている物であり、そのいち人格がアホだと企業全体がアホだと言う事になるのが実情です。それなのに、その愚行を犯した人物の名を公表せよと言うと、ここでまた「個人情報の守秘義務」と言う言葉が出てくる始末。どうやら倫理感を持たない悪者を守る時だけに有効な言葉が、「個人情報の守秘義務」と、言う言葉の正しい使い方らしい。
上の二つの話のどちらも少し話を飛躍させれば、引越しの最中に物が紛失したり、転居先に泥棒が入る危険性さえある話。銀行の預貯金額を把握し、口座番号やキャッシュカードの暗証番号だって漏えいするかもしれない。「そんなオーバーな」と言ってしまえば、どんな話でもオーバーになってしまうが、企業の倫理や個人のモラルとは、そんな危うさを守るためにある物の筈。
建築の話もまた然り。私も仕事柄、携わった建物の写真を公開し、見学会を催すことだってあるが、それは住み手の御好意の上に成立している物であり、見学者の良識ある振る舞いがあると信頼しているからのことで、「私は見学者と言う客だ」みたいな勘違いした御仁には、お出でいただかなくても結構だと思っている。勿論、家の情報を扱う私自身が、軽率な振る舞いや情報管理が許されないことは百も承知の話。
以前、知り合いの建築家さんから聞いた話だが、住宅の見学会を催した時に、赤ん坊を連れてきた女性が、和室の畳の上でオムツの交換を始めたらしい。驚いて声を掛けたら「直ぐに終わりますから」と、強引にオムツ替えを済ませてしまったという。ハッキリ言って、こういう輩は見学に来なくて良いし、きっとその方の家の設計を依頼されても、上手くまとまるとは思えない―と、話していたが、私もまったく同意見。
モラルとか倫理と言うものは、自分の品格を試すものであり、他者への心遣いを試されるものでもあると思う。私も気を付けねば。