『松谷警部と三ノ輪の鏡』 平石貴樹/読了

名推理で犯人を追い詰める女性刑事の白石イアイ。シリーズ三作目の本作では、イアイは既に結婚しており、階級も巡査部長に昇進している。おまけに、ちょっと変わった後輩刑事も加わって、作品世界の幅が広がっている。そんな本作では、ゴルフを題材にした事件が起きるのです。
元プロゴルファーの横手祐介が何者かに殺されるが、容疑者である人物が姿をくらましたまま行方が分からない。捜査を進めるうちに、ゴルフ場経営にまつわる裏金工作やら不正融資やら、なにやらキナ臭い話が出てきた。容疑者の行方が掴めないまま、第二の事件が起きてしまう―
という感じで、本作も事件に絡まる闇は意外と深く、何層にも謎が折り重なっている。この作品の特徴は、何と言っても謎解きのシーンだと思う。基本、警察物なのだから、淡々と時系列に出来事を並べて行けばよいのだが、本作は最後にまとめて謎を解く形になっている。まるで探偵が関係者を一同に集め、「さて皆さん」と始めるかのように。もっともこの作品では、その謎解きを聴くのは、たいてい上司と、その奥さんの二人ぐらい。しかも下手したら、一人は酔いつぶれて寝てしまっていたりすることもある。なんだこの緩さ? ところが、それがこの作品の魅力でもあり、イアイの名探偵ぶりの楽しいところ。なんせ、ほぼ読み手の為だけに謎解きをしてくれているような雰囲気は、親近感さえ感じさせる。
暑さで疲れた頭を休めるには、読書で本の世界を覗き見るなんて言うのも、一つの手だと思いますが。